『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

はわわ、と感激する私をよそに、彼は料理を続ける。
気持ちが落ち着いたからか、室内を満たす温かで美味しそうな香りに鼻がヒクヒクと動いた。


「とりあえず、メシにしよう。酒、抜けてる?」

「あ、大丈夫です」

「ふは、強いな」


それから、眞人さんと向い合せで食事をした。
お酒の飲み過ぎで胃が疲れているだろうから、と彼が作ってくれたのは鮭雑炊で、これがまた優しい味で美味しい。
丼に多めによそわれたそれを、私はぺろりと平らげてしまった。
食後には温かなほうじ茶を淹れてもらって、のんびりと飲んだ。


「あ。そう言えば梅之介は?」

「あいつは休みの日は昼過ぎにならなきゃ起きてこない。よく寝るんだ」


昼の営業後に昼寝もするし、夜の閉店後には食事をして早々に寝るのらしい。
睡眠時間が足りないとイライラするそうで、寝起きもよくないのだとか。子どもか、あいつは。


「腹が減ってもイライラするんだ」

「間違いなく子どもですね」


クスクスと笑い合っていると、件の人が大きな欠伸をしながら現れた。
私と目が合うと顔を顰める。


「やっぱりいたか、シロ」

「あ、名前覚えてくれたんだね。おはよ、梅之介」

「はいはい、オハヨー」


眞人さんの言う通り、梅之介は私がここにいることをもう否定する気はないらしい。
私の座っていたテーブルの近くに腰かけ、「ご飯ちょうだい」と眞人さんに言った。


「ちょっと待ってろ。ああ、シロ。後で家の中の説明するから、待ってろな」

「はい」


すぐに、厨房に眞人さんが引っ込む。
残ってお茶を啜っていると、「なあ」と梅之介が声をかけてきた。


「なに?」

「ひとつ、忠告しておく。眞人のこと、好きになるなよ」

「は?」

「あいつ、僕以上に人嫌いなんだ。人から好意を向けられたくないと思ってる」

「まさか」


思わずぷっと吹き出した。
あんなに親切で優しい人が、人嫌いなはずがない。
だけど、梅之介は真剣な顔で続けた。


「お前、行くところがないんだろ? ここにいたいんだろ? だったら、僕の言うことをきいておけ。眞人のことを好きになったら絶対追い出されるから、好きにはなるな」

「ま、さか」


梅之介の表情に、冗談やからかいの色はない。だけど急には信じられない。
そんな私に、彼は肩を竦めてみせた。


「まあ、出て行きたいって言うなら、話は別だけど。僕はお前が追い出されても平気だし」

「は、あ」


どう受け取ったらいいのかわからないでいる私を横目に、ふあ、と梅之介が大きな欠伸をする。
それとほぼ同時に、眞人さんがトレイを抱えて戻って来た。


「後片付けだけ頼むな、クロ。シロ、ほら、来い」

「は、はい!」


トレイを置いた眞人さんが私を手招きする。その表情はとても柔らかい。
梅之介のさっきの言葉を疑ってしまう。
だけど、彼も嘘をついている風ではなかったし……。

問うように梅之介を見たけれど、雑炊を啜る顔は私を見ることはなかった。