『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「えーと……その。一緒に、寝てくれたんです」


少しの恥ずかしさを持って言うと、案の定「はあ?」と呆れた声を上げられた。


「何だそれ」

「ええと、だからその、ですね。喧嘩してても、機嫌が悪くても、とにかくどんな時でも一緒にベッドに入って寝てくれたんです。私が寝付くまで、こう、ぎゅっと」


すごく安心して、あったかい気持ちで寝られるの。

一度、そう言ったことを達也はちゃんと覚えてくれていて、同棲を始めてからはずっと、そうして眠ってくれた。誰かの温もりや息遣いを感じながら眠るのはとても、心地よくて嬉しかった。達也は最後の晩も、そうして眠ってくれた。


「はあ? お前、一人じゃ寝られないの?」

「い、いえ。そう言うわけではないんです。でも、誰かの温もりを感じて寝るって幸せじゃないですか? 私、誰かと一緒に眠るっていう経験をしたのが大きくなってからで、だから尚更感動が大きかったのかもしれないんですけど」


私は、物心がつくかつかないかといった頃に両親を事故で亡くしている。

引き取ってくれたのは母方の祖父母だった。
彼らは私に何不自由なく生活をさせてくれた。
ふたりとも私が高校生の時に続けて亡くなったが、私が卒業して生きていく為に必要なお金は十分残してくれていた。
そのお金のお蔭で私は高校に通い続けることができたし、卒業後しばらくは金銭的な苦労は一切せずに済んだ。
ふたりにはどれだけ感謝してもし足りない。

そんなふたりが唯一厳しかったのが、スキンシップや子供らしい甘えを許さなかったこと。


『私らは早くに死んでしまうけん、甘やかしたくてもそれはできんのよ。私らがいなくなったあとでも一人でも生きていける強い子にするのが、私らの役目やけんね』


万が一ひとりになっても、誰かに頼らず自分の足でしっかりと立って生きていけるようにならなくてはいけない。甘ったれに育ててしまえば、自分たち亡き後に苦労させてしまうのだから。

そんな考えの人たちだったので、私はどれだけ泣いても寂しがっても一緒に眠ってもらえなかったし、抱きしめてもらえなかった。
カサカサの手でそっと頭を撫でてもらうことだけが彼らのスキンシップだった。

けれどそれはとても幸せな思い出で、たったひとつのふれあいだったせいか、はっきりと思いかえすことができる。
私を撫でてくれる時の、優しく細められた瞳も、深く刻まれた温かな皺も。

ちびりちびりとビールを飲みながら、話す。


「だから、人と一緒に寝るっていうことを知ったのが、けっこういいトシになってからで。そんなんだから、固執してしまってたのかもしれないですね」


へへ、と笑うと、それまで黙っていた梅之介くんが「ふん」と小さく唸った。