『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「なあ、メシ食った?」


ふいに声がかかり、振り返る。


「あ、いえ。まだですけど」

「それは悪いことをしたな。あとで食事作るから、落ち着くまで待ってくれ。その前に、口開けて」

「? はい」


口を開けると、眞人さんがぽいと何かを放りこんできた。


「んむ。うあ、おいひい!」


それはほこほこに炊かれた里芋だった。
もぐもぐと口を動かしていると、「ほら」と眞人さんが里芋をもう一つ摘まんで私に向けた。口を開けるとまたも口に入れてくれる。


「んー、おいひい」


とろりとした鶏そぼろ餡がかかった里芋は、味がじっくりしみ込んでいて堪らなく美味しい。
あー、この里芋だけでご飯二杯はいける。

うっとりしていると、眞人さんが笑った。
瞳がきゅっと細くなって、目じりに笑いジワができる。
整った顔がくしゃりと崩れると、魅力がぐんと増した。
うわあ、かっこいい人のそんな顔、破壊力抜群だよ。


「毎回、すげえ美味そうに食ってくれるよな」

「だ、だって、すっごく美味しいでふもん」


動揺してしまって、ちょっと噛んだ。

しかし、この店が大繁盛しているのは当然だな。
美味しい料理と共にこんな笑顔を向けられたら、日参したくもなるよ。


「それは、ありがとう」


あとでもっと食わせてやるよ、そう言って眞人さんはコンロの方へと戻って行った。
里芋をごっくんと飲み込んで、調理に戻った背中を見つめる。

なんだか、不思議な人。
急に現れた変な女に、どうしてここまで親切にしてくれるんだろう。


「餌付けされてるんじゃねえぞ、ブス」


苛立った声に顔を向ければ、クロくんだった。


「眞人にちょっと優しくされたからって、簡単に惚れたりとかすんなよ。迷惑だ」

「あ。そういうつもりは一切ないです」


最低なフラれ方をしたばかりなのだ。
すぐに切り替えて他の人を好きになるなんて器用な真似できない。
眞人さんに見惚れてしまうのも、それはかっこいい男に対してよくある弊害のようなものだ。
クロくんだって、間近で微笑まれでもしたらきっと、私は見惚れてしまう。


「なら、いいけど。ほら、食洗機が止まってるぞ。さっさと片付けろ」


汚れたお皿を置く彼の眉間にはくっきりとしわが刻まれているので、幸いにもそれはないけれど。
いくら私でも、こんなしかめっ面で毒舌の人にうっとりはしない。