『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

クロくんに言われた通り、裏に回る。


「失礼しまーす」


玄関から入り、店舗の方へ回る。
ノックをしてドアを開けると、美味しそうな香りがそこを満たしていた。
ああ、なんていい匂い。


「あの、お疲れ様です」


気配を消せと言われたので、小声で声をかける。コンロの前に立っていた眞人さんが振り返った。


「ああ、お帰り」

「あ……、はい。ただいま、です」

「眞人! 海老しんじょ二つ追加! あ」


入ってきたクロくんが、私に気が付く。
ペコリと頭を下げると、「眞人の邪魔になるから、さっさと消えろよ」と言い残して店の方へと戻って行った。


「はいはい、かしこまりっと。ごめんな、今ちょっと忙しくってさ。裏方頼んでるバアちゃんがぎっくり腰で休んじゃって」


言いながら、眞人さんは手際よく料理をこなす。
私が見ている間に、海老と貝柱の天ぷらが揚がった。
小鍋に入っていた海老しんじょが綺麗に盛りつけられていく。


「忙しそうですね」

「ああ、そうなんだ」


厨房内を見渡す。洗い場に食器が随分溜まっていた。


「……あの、私、洗い場お手伝いします」

「え?」

「学生時代飲食店でバイトしてましたし、お皿洗いくらいできます」


見れば食洗機もあるし、私でもどうにかなる。


「いいですか?」


訊くと、眞人さんは「助かる」と笑った。


「悪いけど、いい? そこの棚の引き出しに使ってないエプロンあるから使って」

「はい。では、お借りします」


昨晩無理を言って泊めてもらったお礼になるのなら、と私はエプロンをお借りして洗い場に向かった。