『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「は、あ」


口々に文句を言いながら去って行く彼女たちの背中と、店を交互に見る。
と、彼女たちを見送っていたクロくんと目が合った。


「あ、ク」


名前を口にしようとして、噤んだ。
さっきまで可愛らしい表情を浮かべていたクロくんは、私を認めた途端瞳に殺気を備えた。

にっこりと笑ったまま、そっと手招きをするクロくん。
怖い。

おずおずと近づいてみると、クロくんは顔に笑顔を張り付けたまま「何しに来たがったブス」と言った。


「あ、あの。荷物を置きっぱなしなので、引き取りに来ました。それと、眞人さんに一宿二飯のお礼を……」

「裏から入って、気配を消して礼だけ言って帰れ。お前みたいなファンキーブスが眞人の知り合いだと思われたら、客が減るだろうが」

「は、はぁ」


酷い言い草なんですけど。
さっきまでの大人しそうな青年はどこに行った。

そんなとき、クロくんの背後にあった引き戸がカラリと開いた。
お酒が入っているのか、頬をほんのりと染めた綺麗な女性が顔を覗かせる。


「梅乃介くーん? いつまで外にいるの? 眞人さんが一人で大変そうよー」


店の中から、賑やかしい女性の笑い声がする。どうやら大混雑のようだ。


「あ、すみません! すぐ戻ります。ではお客様、申し訳ないんですがまたのご来店をお待ちしております」


天使の笑顔になったクロくんは私に捲し立てるように言うと、店の中に入って行った。
クロくんを呼び戻した女性が、私を見てクスリと笑う。


「こんな時間から来たって、入れるわけないじゃない」

「は、ぁ」


いまいち状況が掴めない私の目の前で、戸は閉められた。


「人気店、てことかな……?」


まあ、当然と言えば当然か。
食事はどれも美味しかったし、店内の雰囲気も良かった。
眞人さんもクロくんも見惚れてしまうくらいのイケメンさんだ。女性客が多くてしかるべきだろう。

しばらく店の前で中の気配を窺っていた私だったが、新しいお客だと思われる女性たちに「ちょっとどいてもらえませんか?」と押しのけられたのをきっかけに、その場を離れた。