『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

リヤカーの前で立ちすくむ私に、梅之介が言う。


「行こう、白路。……ああ、ちょうどよかったじゃないか。ほら、見送りが来たぞ」


梅之介が、私の背後に視線をやって皮肉に言った。振り返れば、眞人さんがいた。
無表情の眞人さんは、荷物の乗ったリヤカーをじっと見ていた。


「あ……」

「眞人。お世話になりました。僕と白路は、出て行きます」


梅之介が、高らかに言う。


「青森で、頑張ってよね」

「……ああ」

「元気で。行くよ、白路」


ああ、もう、本当に、最後なんだ。
もう少し、もう少し一緒に、と思うけれど、そんな事を言い出したら、私はずっと離れられない。
梅之介の言葉に従って、ここを去った方がいいのかもしれない。

心を決めて、眞人さんと、向き合った。
大好きな瞳を、真っ直ぐに見る。
私を助けてくれた、とても大好きな人。
あなたに会えてよかった。

ずっと。
ずっと甘やかして欲しいと願ったこともあったけれど。
それは、叶うはずのない夢。
束の間でも、あんな時間を与えてもらったことを幸福だと思おう。


「眞人さん」

「ああ」

「今まで、ありがとう。私、ここでの生活を忘れない」

「……ああ」


眞人さんの顔が、歪んだ。
少しくらい、私の事を想ってくれたのかな。
別れを、惜しむくらいには。
それは、すごく嬉しいよ。


「……『飼い犬』として、本当に幸せだった。じゃあ、」


ぐっと喉元に熱が込みあげる。それを必死で堪えて、笑顔を作った。


「さようなら」


最後くらい、笑っていたい。その一心で、私は顔を作った。


「さよう……なら」


眞人さんが、別れの言葉を口にした。


「行くぞ、白路」


リヤカーを引いた梅之介が言う。


「うん」


踵を返して、先を行く梅之介の後に続く。
門を出て、薄闇の広がる商店街へと歩き出した。

数ヶ月前、雪の中泣きながらリヤカーを引いた。
世界で自分が一番不幸だと泣いた私だったけれど、今の方が、辛い。

ぼろぼろと零れ落ちる涙を拭う力もなくて、私はただ、梅之介の後ろを歩いた。

梅之介は何も言わずに、いうことをきかないリヤカーを引いてくれた。
どれだけ私がしゃくり上げようとも、「泣くな」とは言わなかった。
それはきっと、どれだけでも泣いていいということなのだろう。