『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

それから、三人とも新生活に向けての準備を着々と進め始めた。

『四宮』の閉店を決めた眞人さんは、まず店内に閉店の旨を書いた貼り紙を出した。
これには、多くの女性客がショックを受けた。


「嘘でしょ。私、ここに通うのをすっごく楽しみにしてたのよ?」

「青森なんて、ものすごく遠いじゃない……、やだぁ」


泣き出す人までいて、まあそこまでは想定内。
しかし、眞人さんと梅之助に駆け込み告白する女性が後を絶たなかったのは、驚いた。
さすがの人気ぶりだと、息を殺して皿洗いに励む私だった。

そんな中での梅之介の行動力は、すごかった。
梅之介はあっという間にヘアサロンの就職を決め、そして新しいアパートまで見つけてきたのだ。

梅之介の家族、特に母親は、梅之介が生きて戻って来たことを殊の外喜んでおり、新居の準備を頼まないのに済ませてしまったらしい。


「お蔭で、もう何もすることがない。今まで最低限の荷物で生活していたから、ここから持って行く荷物なんてたかが知れてるし」


梅之介は、肩を竦めて言うのだった。
そして、梅之介はさすがというべきのしたたかな人で、就職先が決まったと同時に、『四宮』のお客たちに転職の告知をした。


「まだ見習いみたいなものだから、すぐにはカットに入れないんです。でも、シャンプーやブロー、マッサージとかはさせてもらいます。だからぜひ、来てください。お願いします!」


『四宮』閉店を受けて悲しみにくれるお客様たちに、笑顔で営業をかましたのだった。
可愛らしいお顔と爽やかな口調でお願いをする梅之介に、誰が「ノー」と言うだろうか。
みんな、「絶対行く」と梅之介に誓っていた。
半端でない人数の新規客を引き連れて行けば、さぞかし売り上げをアップさせられることだろう。

梅之介、なんて恐ろしい人。


眞人さんも、青森行きの支度を進めていた。
向こうでは、榊さんの御宅に住み込むことにしたそうで、住居を探す手間が減ったと言っていた。
荷物も、最低限の物しか持って行かないそうだ。
引っ越し作業と並行して、閉店の処理を進める。出発の二日前に店を閉めることになった。

私も、真帆の後に入居することが決まり、荷物整理を済ませた。
婚約者の修一さんの家具や家電があるから、私の為にいらない物は残して行ってくれるそうで、大いに助かった。

ここに来て家具や小物なんかが幾つか増えたけれど、しかし私の荷物は大した量ではない。
来た時に使ったボロリヤカーに詰め込んで、引っ越しするつもりだ。