『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「――眞人さん」

「え?」


近づいて、声をかける。
私が寄って来ていたことに全然気づかなかったらしい。
眞人さんは驚いたように私を見て、それから周囲を見渡した。


「クロは? シロひとりなのか?」

「さっきまで一緒にいたんだけど、先に帰ったの。横、座っていい?」


訊くと、眞人さんが「……ああ」と頷いた。


「座れ。ここ、一番桜が綺麗に見えるぞ」


横に腰かけ、空を見上げる。
桜の花弁が静かに降っている。


「ほんとだ、綺麗」


しばらく、見上げていた。そんな私に、眞人さんが「ありがとな」と言った。


「昼間、小紅に言ってくれたこと、嬉しかった」


眞人さんの言葉に、首を横に振る。


「私が、自分の言いたかったことを言っただけだよ。でも、小紅さん、いつか、私の言ってたこと、わかってくれるかなあ」


いつか、分かって欲しい。そして今度は、ちゃんと誰かを愛して欲しい。


「信じてもらえないだろうけど、あの子は元はいい子なんだ。だから、きっと分かる日が来るだろう。まあ、時間はかかりそうだったけどな」


くすりと笑った眞人さんが、新しい煙草に火をつける。
すう、と吐いた煙が夜風に乗って消えて行った。


「眞人さん、あんな勢いで言ったけど、私、眞人さんのこと、好きだよ」


深く息を吐いて、静かに言った。
心臓はこれ以上ないくらいにどきどきして、壊れてしまいそうだった。
だけど、口に出してしまうと不思議と、落ち着きを取り戻していく。

すっと空を見上げた。
ああ、なんて綺麗なんだろう。


「小紅さんとのこと知って、眞人さんが人のこと信じられなくなった理由も、分かった。だから、私の気持ちも、眞人さんにとって迷惑なだけだと思う。『飼い犬』の顔して安心させておいて、ごめんなさい」

「……ありがとう。シロの気持ち、嬉しいと思う。あんなに、想いを向けられることが嫌だって言ったくせに、シロからだと嫌悪なんて欠片も抱かなかった。不思議だな。嫌じゃ、なかったんだ。本当に」


眞人さんが、ゆっくりと語りだす。
眞人さんの方を見ず、背筋をすっと伸ばした。手を宙に差しだし、舞う花弁を掴もうとする。


「……うん」


それは、嬉しい。
冷たく拒否されることも考えていたのだから、とても嬉しい。

だけど。

眞人さんの口ぶりはとても躊躇いがちで、考えながら話していることが分かる。
私の想いを受け取れないことをどう伝えるかと考えてることが、嫌って言うほど、分かってしまう。
嬉しくて、でも、悲しい。

やっぱり、ダメだったよ。梅之介。