『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「なんでもない。……あ、眞人」


ぴたりと、梅之介が足を止めた。
梅之介の言葉を間違いなく聞き漏らすまいと迫っていた私は、急に止まったせいで背中にぶつかってしまう。


「ぶえ、痛い。え、眞人さん?」

「ああ。ほら」


梅之介が前方を指差す。

ひときわ大きな桜の木の下のベンチに、眞人さんが座っていた。
ビールの缶を灰皿代わりにして、ゆっくりと紫煙を吐きだしている。
考え事をしているのか、夜空を仰ぐように上を向いていた。


「帰って来ないと思ったら、こんなところにいたか。まあ、いいタイミングなのかもしれないな」


ふ、と梅之介が息を吐く。それから、繋いでいた手をゆっくりと解いた。
振り返り、私に言う。


「行って来いよ、白路」

「え?」

「あんな勢い任せの告白を一方的にしてるんだぞ。ちゃんと、話して来いよ」


ほら、と梅之介が私を急かす。
だけど、心の準備も何もしていないのに、どうしろって言うの。
おろおろと梅之介を見ると、「行くべきだぞ」と言った。


「ちゃんと、どうしたいか伝えなきゃだろ。お前だって、さっき僕がお前に全てを丸投げしたら、困ってたはずだろ」


……それは、そうだ。
梅之助は気持ちを伝えた上で、返事はまだいらないと私に言う。今までの関係でいい、とも。
私は、すごくそれが嬉しかった。


「行って来る、私」

「ああ。僕、先に帰ってるよ。白路は、眞人と帰ってきな」


私を見下ろす梅之介が、一瞬だけ目を細めて笑った。
だけど、その笑顔はどこか寂しそうだった。

その顔を見て、は、とする。
梅之介は、眞人さんを好きな私をどんな思いで見ていたんだろう。

どうして気付かなかったんだろう。
好きな人が他の人を見てることがどれだけ苦しいか、私は知らないわけじゃない。


「ご、ごめん、梅之介! 私、すごくすごく無神経だった!」

「なんだよ、急に」


びっくりしたように眉を上げた梅之介の手を握る。

「本当に、ごめん! 私、梅之介のこと、全然考えられてなかったと思う! 梅之介、辛かったよね、ごめんなさい!」

「……なんだよ、びっくりした。謝んなくっていいよ。好きになったのは、僕の勝手だ。僕が何をどう感じようが、白路のせいじゃない」


手を解いて、梅之介は笑う。


「白路も、白路の勝手を通して来いよ。それがどんな結果になろうと、僕のことは考えなくっていい。大丈夫、僕は眞人のことも好きだから、お祝いだって言える」

「お祝い? それはないよ。だって、ありえない」

「どうかな。まあ、頑張ってきなよ」


そう言って、梅之介は本当に帰って行った。

しばらくその場に立ち尽くして背中を見つめていた私だったが、すう、と深呼吸して心を落ち着けた。

梅之介が私にしてくれたように、私もすべきだ。
ちゃんと、眞人さんと話して来よう。
勢いで告白なんてしてしまった。そのケリをちゃんとつけて来よう。

どんな結果になっても、納得しよう。
受け入れよう。

いけ、白路。