『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

口をパクパクさせるしかない私を見て、梅之介が言う。


「ああ、心配すんなよ? 返事をくれ、なんて言わないから。お前の気持ちは十分知ってるからさ。僕が言いたくなったから、言っただけ」

ああ、いや、と梅之介は考え込む仕草をして、それから私を見て小さく笑った。

「ちゃんと自立してからもう一度言おうかな。今の僕のスペックってあのヒモクズの元彼と同じようなもんだもんね」

「そんな……。梅之介は、達也とは全然違うよ……」


そこだけはちゃんと訂正を入れなきゃ。
のろのろと言うと、「当たり前だろ」と梅之介が唇を尖らせた。


「僕の方が断然いい男だろ! それに、同じになりたくないから頑張るというやる気もある」

「は、はあ。ええと、はい」


どうしよう。なんて言えばいいんだろう。なんて反応すればいいんだろう。
おろおろしていると、梅之介が鼻を鳴らした。


「動揺しすぎだろ。お前、全然想定してなかったのかよ。何とも思ってない女に親切にするほど、僕は博愛精神に富んでないぞ」

「あ、あう」


そ、想定って何。そんなのするわけないじゃん。だって、そんなことあるなんて、思いもしないじゃない。
そんな私を見て、梅之介はため息をついた。


「まあ、分かってたけどさ。でも、少しくらい意識しとけよ、馬鹿白路」

「あ……ごめんなさい」

「いいよ別に。これでもう、知らん顔は出来ないだろうからな。これからは少しくらい、僕を意識しろ」


ふん、と余裕ありげに笑う顔は、いつもの梅之介のものだった。


「ああ、すっきりした。さ、帰ろう。肌寒くなってきたし」


すっきり。すっきりって、私は全然すっきりしないんですけど。
むしろ、もやもやが増えたんですけど。

これから、どんな態度で梅之介と接したらいいの。分かんないよ。
脳内で大騒ぎをしていると、梅之介が私に「ほら、帰るぞ」と言う。


「白路はもういい年なんだから、早く寝ないと肌がやられるだろ。目の下、縮緬ジワが出来るぞ」

「むか」


小じわ対策に勤しむ二十七歳に、なんて暴言を吐くのか。


「おねむの時間になった子どもに言われたくありません。子どもはもう寝る時間だもんね」

「きー! 心配して言ってやったっていうのに! なんだそれ」


梅之介が怒った顔をする。そんな梅之介にべ、と舌を出して見せながら、ほっとしている自分がいた。

ああ、今まで通りでいいんだ。
梅之介は、今まで通りでいいって言ってくれてる。

私は狡い。
梅之介の気持ちはすごく嬉しくて、でも、それに答えられないって分かってる。
なのに、梅之介と変わらず仲良くしたいと思ってて、こうして、『今まで通り』を許されたらそれに甘えてしまう。
だって、梅之介は私にとって、とても大切な人なのだ。できれば、失いたくない。