『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「梅之介?」

「僕、四宮家を出て、一度実家に帰る。そしてあのクソオヤジとケリつけて、改めて自立するよ。美容師に戻る」


梅之介は私を見つめたまま、真剣な口調で続けた。


「もう、傷ついたって言って逃げ込むのやめる。あんな女に馬鹿にされるの、二度と御免だから」

「……頑張って」


心の底からそう思って、言った。
だけど、心のどこかで悲しんでいる自分がいる。
だってこれは、梅之介があの家を出て行くという決意の告白なのだ。

梅之介が、いなくなってしまう。
もう一緒に生活ができない。
それはなんて、寂しいことなのだろう。

だけど、私に梅之介の決意を止めることは出来ないし、何よりこれは止めることではない。応援するべきこと。


「私、応援するよ」

「うん。見てて。僕、白路に見ていてほしいんだ」


梅之介が、私の手を取り、摘まんだ花弁をそっと手の平に乗せた。


「白路に応援されているって思ったら、嫌なことも全部終わらせられる。だから、見ていてよ」

「任せてよ。私、全力で応援するから。梅之介の輝かしい第一歩だもんね」


花弁を握って、笑顔を作った。

梅之介には、これまで沢山助けられてきた。
梅之介のお蔭で、私はとても楽しい生活を送ることができた。
その恩を少しでも返せるのなら、私はどれだけでも梅之介を応援しよう。

これは、梅之介の新しい門出なのだから。

一陣の風が吹いた。
強い突風のようなそれは散った花弁をも巻き上げる。
花弁が吹雪のように舞う。


「ひゃあ、すごい風だね……って、梅之、介?」


ぱちぱちと瞬きをした私を、梅之介が見下ろしていた。
その顔は、びっくりするくらい優しくて、そしてそっと微笑んでいた。


「お前、本当に、馬鹿だな」


口調も穏やかで、しかしその声音はとびきり優しい。
いつもの梅之介と、違う……。


「……はっきり言わないとだめか。僕は、白路が好きだよ」

「梅……」

「気付いたら、すごく好きになってた」

「は」


頭が真っ白になる。
梅之介が、私を?

だって、いつもあんなにファンキーブスだとか愚図だとか言っていて。
そんな、嘘でしょう?

だけど、梅之介はいつだって私を助けてくれた。私を見守ってくれた。
それに、目の前の瞳は本当に優しくて、声も嘘なんか全然滲んでいない。
ちゃんと、本心だって伝わってくる

驚きすぎて声にならない。
全身に梅之介の本気が伝わっているくせに、頭の中では信じられないって叫んでいる。