平日とはいえ、神社の参道の桜並木には沢山の人がいた。みんな楽しそうにお酒を酌み交わしている。
「日本人は本当に桜が好きだな」
「だって綺麗だもん。夜桜も、風情があっていいねえ」
私と梅之介は、途中の露店で買ったいか焼きとビールを手にのんびり歩いていた。
桜の花は散り始めており、さあ、と風が吹く度に花弁が小雪のように舞った。
外灯と提灯の光を受けたその光景はとても幻想的で、目を奪われてしまう。
「散り際は特に綺麗だよねえ。誘ってくれて、ありがとう」
やっぱり部屋に籠もってるよりずっといい。
盛り上がる花見の席を眺め、露店を冷やかしながらのんびりと歩いていると、梅之介がふいに「僕さ、眞人に会うまでは美容師してた」と言った。
「へ? 美容師?」
「そう。専門学校卒業して一年過ぎて、仕事を覚えて楽しくなってきたころだった。専門学校の時から付き合ってた彼女がいて、あと数年したら結婚とかしたいなあって考えてたんだ」
「……うん」
梅之介は、私に自分のことを話したかったのだろう。
その為に、ここに誘ったのだ。それが分かって、私は静かに頷いた。
「美容師って、ほんと、驚くくらい給料安いんだけどさ。だけど、いつか自分の店を持って彼女とやって行きたいって思ってて。彼女もそれに賛成してくれてた」
「お家、日舞の家元なんでしょう? 家を継ぐとか、そう言う問題は、よかったの?」
訊くと、梅之介は頷いた。
「兄が二人いる。兄さんたちが家を継ぐことになっていて、僕は好きな道を歩んでいいって小さな頃から言われてた。日舞はあんまり好きじゃなかったし、本当にそれは助かってたな。彼女もごくごく普通の家の子で、家に縛られることはないって言ったら喜んでたし」
「日舞って、難しいの?」
「まあね。シロには、難しいかもね」
ふふん、と笑う梅之介。むか、と声を上げた私の頭を手の平でポンポンと撫でる。
「でさ、まあ、結婚を見据えてたから、同棲とか始めちゃってさ。その流れで、両親に紹介したんだ。そこまでは本当に上手く行ってた」
「うん」
話を続ける梅之介の、綺麗な横顔を見上げる。夜空を見上げる顔は、辛い過去を思い出して歪んでいるわけではなく、どこか晴れ晴れとしていた。
「そんなある日、だよ。具合が悪くなって、仕事を早退したんだ。彼女はシフトが休みで部屋にいるはずで、だから僕は特に連絡もせずに帰った。当たり前だけど鍵を自分で開けて、中に入ったよね。『ただいまー』なんて、本当にお気楽に」
くすくすと梅之介が笑う。
「リビングに彼女の姿は無くて、だけどテーブルには二つのコーヒーカップが置かれてた。友達でも来て、そのまま出かけたのかな、なんて考えた間抜けな僕は、気分が悪かったからひと眠りしようと寝室に向かった。そこで見たものが、僕が帰ったことにも気づかずに抱き合ってるオヤジと彼女だったんだよね。ていうか、全裸の彼女がオヤジの上に跨ってた」
「う、あ……」
呻き声のようなものが出た。それってすごい修羅場だ。
自分のベッドの上で、別の男(しかも実父)が彼女と真っ最中だなんて、辛すぎる。ありえない。
自分がその立場だったらと考えるだけで、頭が禿げ上がってしまいそうだ。
「日本人は本当に桜が好きだな」
「だって綺麗だもん。夜桜も、風情があっていいねえ」
私と梅之介は、途中の露店で買ったいか焼きとビールを手にのんびり歩いていた。
桜の花は散り始めており、さあ、と風が吹く度に花弁が小雪のように舞った。
外灯と提灯の光を受けたその光景はとても幻想的で、目を奪われてしまう。
「散り際は特に綺麗だよねえ。誘ってくれて、ありがとう」
やっぱり部屋に籠もってるよりずっといい。
盛り上がる花見の席を眺め、露店を冷やかしながらのんびりと歩いていると、梅之介がふいに「僕さ、眞人に会うまでは美容師してた」と言った。
「へ? 美容師?」
「そう。専門学校卒業して一年過ぎて、仕事を覚えて楽しくなってきたころだった。専門学校の時から付き合ってた彼女がいて、あと数年したら結婚とかしたいなあって考えてたんだ」
「……うん」
梅之介は、私に自分のことを話したかったのだろう。
その為に、ここに誘ったのだ。それが分かって、私は静かに頷いた。
「美容師って、ほんと、驚くくらい給料安いんだけどさ。だけど、いつか自分の店を持って彼女とやって行きたいって思ってて。彼女もそれに賛成してくれてた」
「お家、日舞の家元なんでしょう? 家を継ぐとか、そう言う問題は、よかったの?」
訊くと、梅之介は頷いた。
「兄が二人いる。兄さんたちが家を継ぐことになっていて、僕は好きな道を歩んでいいって小さな頃から言われてた。日舞はあんまり好きじゃなかったし、本当にそれは助かってたな。彼女もごくごく普通の家の子で、家に縛られることはないって言ったら喜んでたし」
「日舞って、難しいの?」
「まあね。シロには、難しいかもね」
ふふん、と笑う梅之介。むか、と声を上げた私の頭を手の平でポンポンと撫でる。
「でさ、まあ、結婚を見据えてたから、同棲とか始めちゃってさ。その流れで、両親に紹介したんだ。そこまでは本当に上手く行ってた」
「うん」
話を続ける梅之介の、綺麗な横顔を見上げる。夜空を見上げる顔は、辛い過去を思い出して歪んでいるわけではなく、どこか晴れ晴れとしていた。
「そんなある日、だよ。具合が悪くなって、仕事を早退したんだ。彼女はシフトが休みで部屋にいるはずで、だから僕は特に連絡もせずに帰った。当たり前だけど鍵を自分で開けて、中に入ったよね。『ただいまー』なんて、本当にお気楽に」
くすくすと梅之介が笑う。
「リビングに彼女の姿は無くて、だけどテーブルには二つのコーヒーカップが置かれてた。友達でも来て、そのまま出かけたのかな、なんて考えた間抜けな僕は、気分が悪かったからひと眠りしようと寝室に向かった。そこで見たものが、僕が帰ったことにも気づかずに抱き合ってるオヤジと彼女だったんだよね。ていうか、全裸の彼女がオヤジの上に跨ってた」
「う、あ……」
呻き声のようなものが出た。それってすごい修羅場だ。
自分のベッドの上で、別の男(しかも実父)が彼女と真っ最中だなんて、辛すぎる。ありえない。
自分がその立場だったらと考えるだけで、頭が禿げ上がってしまいそうだ。



