『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

その晩、二十一時を過ぎても眞人さんは帰って来なかった。
こんなこと、一緒に暮らし始めて初めてのことだ。
私があんな告白をしたから、眞人さんは帰りづらいのかもしれない

私は部屋の隅で体育座りをして、延々と自己嫌悪の波に飲まれていた。
食事も摂ることなく、壁に向かって座った私は延々と「私の馬鹿」と繰り返していた。

口にしてはいけない想いだと分かっていて、自分を戒めていたのに。なのにあんな場面で口にしてしまうなんて、最悪だ。


「ああ。もう、どうしよ……」


私がここにいたら、眞人さんはいつまでも帰って来られないかもしれない。
出て行った方が、いいのかな。
でも、何も言わずに出て行くのも、違うよね。
眞人さんは私に本当に優しくしてくれた。
その感謝を伝えてから、だよね。

でも、お別れするなんて、心構えが全然できていない。何にも言えずに、絶対泣いてしまう。


「やだ……」


眞人さんにお別れを言う自分を想像するだけで泣き出しそうになって、両膝に顔を埋めたとき、襖が鳴った。


「シロ? 僕だけど」


それは、梅之介の声だった。
そこで、はたと気づく。私はあれから、梅之介と満足に話すことなく自室に籠もってしまったのだった。
眞人さんがいない今、私が梅之介の食事の支度くらいするべきだったのに、そんなことも思いつかないなんて!


それに、小紅さんに自分の事情を不用意に明らかにされた上、傷の舐めあいと言われてしまったのだ。
梅之介だって、きっと傷ついたに違いない。
なのに、私ったら自分のことばかり考えていた。


「ご、ごめん! 私……」


立ち上がり、慌てて襖を開ける。
私を見下ろした梅之介は、「なんだ、意外に元気そうだな」と言った。


「まだ寝ないだろ?」

「……え? う、うん」

「夜桜、観に行かないか」


梅之介は、コンビニに誘うような軽さで言った。


「へ? よざくら?」

「うん。散り際で、綺麗だと思うからさ」


行こうよ、と重ねて言われ、私は少しだけ考えてから頷いた。
部屋の隅っこで悶々としているよりも、いいかもしれない。


「夜風は冷えるから、コート着てこいよ。玄関で待ってる」

「うん」


それから厚手のコートを着て、ポケットに小さなお財布を入れた。
それから玄関へ向かうと、梅之介が私を待っていて「神社の方へ行こう。露店が出てるって話だぞ」と言う。


「やっぱり。だから、お財布持って来た」

「僕も。いか焼き食べようぜ」

「うん!」


それから、ふたりで並んで歩きだしたのだった。