「そんな馬鹿げたことが、できるわけないでしょう。あんな別れ方をした男性がどうして結婚を了承するというの? 仮に結婚に持ち込んだとして、誰があなたを祝福してくれるというの。我儘娘がまた我儘を通したと、笑いものになるだけですよ」
ぴしりと言い捨てて、母親は続けた。
「あなたはあの愚行のせいで、全ての人からの信用を失っているのよ。あなただけじゃない、私たちも、勿論『華蔵』も。信用を取り戻すには、膨大な努力と時間が必要なの。後継ぎを美晴にしたのも、新しい『華蔵』として信用を取り戻していく為よ」
「だからって、どうして私が結婚しなくちゃいけないの!?」
「嫌だと言うのなら、お断りしましょう。でも、それならば家をでて一人で生きていきなさい。店も、あの家もいずれは美晴たち夫婦の物。あなたのいる場所は、なくなるのよ」
呆然とした小紅さんが、ペタンと床に座り込んだ。両手で顔を覆い、「嫌よ、嫌よ」と繰り返しながら泣き始める。
「もっと早く、突き放すべきだったわ。やっと生まれた一人娘のあなたを私たちが甘やかし過ぎたせいで、こうなってしまったのね」
子供のように泣きじゃくる娘を見下ろして、母親がため息をつく。
「ほら、小紅。外に車を待たせている。父さんと一緒に行こう」
父親が小紅さんの肩に手をかける。
「ほら、立ちなさい。ああ、浦部。君にはここまで付き合わせてすまなかったね。さあ、君も一緒に来なさい」
イヤイヤと首を振って泣く小紅さんだったが、父親と浦部さんに抱きかかえられるようにして立ち上がる。
「眞人!」
出入口を出る瞬間、彼女が振り返って眞人さんの名前を呼ぶ。眞人さんは、「お幸せに」と短く返しただけだった。
最後の希望を断ち切られた彼女が、再び泣き声を上げる。
しかしそれも、すぐに消えた。
引き戸が閉じたのを確認してから、小紅さんのお母さんが私たち三人に向き直った。
「娘がご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。二度とこのようなことはさせませんので、どうか穏便に済ませていただけないでしょうか」
「女将、顔を上げて下さい。これで終わったのなら、充分ですから」
眞人さんが慌てて言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そっと笑う顔はとても綺麗で、小紅さんは母親似なのだと分かった。
「ありがとう。元気だった? 四宮くん」
「ええ、見ての通りです」
「あなたの活躍、耳にしていました。あれからも頑張っているのね。嬉しいわ。お店もきちんと手入れしてあって、好感が持てるわ。ただ、少し季節を感じさせるような小物を置くといいわね。少し殺風景に感じます」
ぐるりと店内を見渡して言う彼女に、眞人さんが少し恥ずかしそうに頭を掻く。
ぴしりと言い捨てて、母親は続けた。
「あなたはあの愚行のせいで、全ての人からの信用を失っているのよ。あなただけじゃない、私たちも、勿論『華蔵』も。信用を取り戻すには、膨大な努力と時間が必要なの。後継ぎを美晴にしたのも、新しい『華蔵』として信用を取り戻していく為よ」
「だからって、どうして私が結婚しなくちゃいけないの!?」
「嫌だと言うのなら、お断りしましょう。でも、それならば家をでて一人で生きていきなさい。店も、あの家もいずれは美晴たち夫婦の物。あなたのいる場所は、なくなるのよ」
呆然とした小紅さんが、ペタンと床に座り込んだ。両手で顔を覆い、「嫌よ、嫌よ」と繰り返しながら泣き始める。
「もっと早く、突き放すべきだったわ。やっと生まれた一人娘のあなたを私たちが甘やかし過ぎたせいで、こうなってしまったのね」
子供のように泣きじゃくる娘を見下ろして、母親がため息をつく。
「ほら、小紅。外に車を待たせている。父さんと一緒に行こう」
父親が小紅さんの肩に手をかける。
「ほら、立ちなさい。ああ、浦部。君にはここまで付き合わせてすまなかったね。さあ、君も一緒に来なさい」
イヤイヤと首を振って泣く小紅さんだったが、父親と浦部さんに抱きかかえられるようにして立ち上がる。
「眞人!」
出入口を出る瞬間、彼女が振り返って眞人さんの名前を呼ぶ。眞人さんは、「お幸せに」と短く返しただけだった。
最後の希望を断ち切られた彼女が、再び泣き声を上げる。
しかしそれも、すぐに消えた。
引き戸が閉じたのを確認してから、小紅さんのお母さんが私たち三人に向き直った。
「娘がご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。二度とこのようなことはさせませんので、どうか穏便に済ませていただけないでしょうか」
「女将、顔を上げて下さい。これで終わったのなら、充分ですから」
眞人さんが慌てて言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そっと笑う顔はとても綺麗で、小紅さんは母親似なのだと分かった。
「ありがとう。元気だった? 四宮くん」
「ええ、見ての通りです」
「あなたの活躍、耳にしていました。あれからも頑張っているのね。嬉しいわ。お店もきちんと手入れしてあって、好感が持てるわ。ただ、少し季節を感じさせるような小物を置くといいわね。少し殺風景に感じます」
ぐるりと店内を見渡して言う彼女に、眞人さんが少し恥ずかしそうに頭を掻く。



