店の引き戸がからりと開いた。
「みっともない。外まで声が聞こえましたよ。小紅、これはどういうことですか」
入って来たのは、江戸小紋をすっきりと着こなした四十すぎの女性だった。
女性の後ろから、グレーのスーツを着た上品そうな初老の男性が続く。
「お母様!」
「旦那さま!」
小紅さんと浦部さんが揃って声を上げる。
このふたりはどうやら、小紅さんの両親であるらしかった。
私たちに会釈をした母親らしき女性が、小紅さんの元へ行く。
「小紅、この騒ぎはどういうことですか。あなたには、四宮さんとの一切の接触を禁じていたはずでしょう?」
凛とした佇まいで、声にも張りがある。高級料亭の女将とはなるほどと思う貫禄だった。
さっきまで泣きじゃくっていた小紅さんが、涙を拭いて「でも……でも……」と口ごもる。
小紅さんの母が眞人さんに頭を下げる。
「四宮さん、娘が申し訳ありません。すぐ、帰らせますので」
それから、娘に向き合った母は声音を厳しく言い放った。
「小紅。あなたの結婚話を纏めてきました。鶴岡県議の御子息です。さっきお会いして来たけれど、お優しそうなとても感じの良い青年でしたよ。秋には先方に嫁いでもらいますので、そのつもりでいなさい」
小紅さんが、涙を拭く手を止めた。大きな目を見開き「え?」と問い返す。
「私が、嫁ぐ? どうしてよ、お母様。私がいなくなったら。『華蔵』はどうするの? 跡取りがいなくなるわ」
「おまえの従姉妹の美晴が後を継いでくれることになった。京都の紫水庵の御子息と結婚していただろう? あの婿殿とふたりで盛りたててくれるそうだから、心配ご無用だ」
父親が言い添えると、小紅さんの顔色が青くなった。唇がわなわなと震える。
「い、いやよ、お母様。嘘でしょう? 私は絶対嫁いだりしないもの。眞人を連れて帰るの。眞人と華蔵に……」
ね、眞人。と小紅さんが眞人さんに縋るような視線を投げる。眞人さんはゆっくりと、首を横に振った。
「みっともない。外まで声が聞こえましたよ。小紅、これはどういうことですか」
入って来たのは、江戸小紋をすっきりと着こなした四十すぎの女性だった。
女性の後ろから、グレーのスーツを着た上品そうな初老の男性が続く。
「お母様!」
「旦那さま!」
小紅さんと浦部さんが揃って声を上げる。
このふたりはどうやら、小紅さんの両親であるらしかった。
私たちに会釈をした母親らしき女性が、小紅さんの元へ行く。
「小紅、この騒ぎはどういうことですか。あなたには、四宮さんとの一切の接触を禁じていたはずでしょう?」
凛とした佇まいで、声にも張りがある。高級料亭の女将とはなるほどと思う貫禄だった。
さっきまで泣きじゃくっていた小紅さんが、涙を拭いて「でも……でも……」と口ごもる。
小紅さんの母が眞人さんに頭を下げる。
「四宮さん、娘が申し訳ありません。すぐ、帰らせますので」
それから、娘に向き合った母は声音を厳しく言い放った。
「小紅。あなたの結婚話を纏めてきました。鶴岡県議の御子息です。さっきお会いして来たけれど、お優しそうなとても感じの良い青年でしたよ。秋には先方に嫁いでもらいますので、そのつもりでいなさい」
小紅さんが、涙を拭く手を止めた。大きな目を見開き「え?」と問い返す。
「私が、嫁ぐ? どうしてよ、お母様。私がいなくなったら。『華蔵』はどうするの? 跡取りがいなくなるわ」
「おまえの従姉妹の美晴が後を継いでくれることになった。京都の紫水庵の御子息と結婚していただろう? あの婿殿とふたりで盛りたててくれるそうだから、心配ご無用だ」
父親が言い添えると、小紅さんの顔色が青くなった。唇がわなわなと震える。
「い、いやよ、お母様。嘘でしょう? 私は絶対嫁いだりしないもの。眞人を連れて帰るの。眞人と華蔵に……」
ね、眞人。と小紅さんが眞人さんに縋るような視線を投げる。眞人さんはゆっくりと、首を横に振った。



