『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「ねえ眞人、もう意地悪しないでよ! 私がこんなに嫌がってるのに、どうしてわかってくれないの⁉ 私がここまでしてあげているのよ。わかってよ」


綺麗な顔を歪ませ、大きな瞳からぽろぽろと涙を零す。

彼女はきっと、愛されすぎて育ったんだろう。
自分を否定されたことなんてきっとなくて、だから眞人さんの拒絶が理解できないでいる。
眞人さんを裏切っても、それでも愛されて当然だと思う彼女の愚かさが、悲しい。


「小紅さん。もう、帰りましょう。ここにいても、お互い傷つくだけです……」


浦部さんがおろおろと小紅さんを宥める。しかし彼女は泣きじゃくって、話を聞こうとしない。
小紅さんが、眞人さんの後ろにいる私を見た。涙で濡れた目元をぐっと拭って、私をまじまじと見る。


「な、何ですか?」

「この人のせい⁉」


小紅さんが私を指差した。


「ねえ眞人、もしかしてこの人とそういう関係なの? 私よりこんな人の方がいいっていうの?」


涙声で眞人さんに迫る。しかし眞人さんはまだ冷静なままだった。


「誰かに心変わりしたとか、そんな簡単な話じゃない。いい加減分かってくれよ」

「やっぱりこの人のせいなんだ! ねえ、どうしてこんな人がいいの? 私より年取ってるし、ブスじゃない!」


眞人さんがため息をついて、「浦部さん」と言う。


「もう、話にならないって分かったでしょう? 彼女を連れて帰ってください。そして、もう二度とここに来ないでくれ」

「……考えなしだったのは、私のようです。すみません。こんなことになるとは、思いもよりませんでした」


拾い上げた書類を胸に抱いた浦部さんが、深く頭を下げる。


「小紅さん、帰りましょう」

「嫌よ! ねえ、あなたが私から眞人を盗ったの?」


肩にかけられた浦部さんの手を振り払って小紅さんが言う。


「返してよ! あなたみたいな人が眞人に何をしてあげられるっていうの? 何にもできないくせに!」


眞人さんが立ち上がり、「小紅!」と声を張る。その眞人さんを押しやって、私は彼女の前に出た。