『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「勘違いしないで、眞人。先に私を侮辱したのはそこのふたりよ」


小紅さんは私と梅之介を指差す。


「それに、私だって、驚いたのよ? 偉そうに私を追いだした人だからさぞかし素晴らしい人たちなんだろうと思ったら、ただの負け犬だったんですもの。負け犬が傷を舐めあって暮らしてたなんて、馬鹿みたいだと思うのは当然じゃない? この間の私は、さしずめテリトリーに入ったよそ者ってわけでしょ」


私の横に立つ梅之介の拳がぶるぶると震えている。
小紅さんを睨みつける目は厳しくて、私は梅之介がこんなにも怒っているところを見たことがない。

負け犬……。
私たちは負け犬なんかじゃない。
眞人さんたちと傷をなめ合ってきたわけじゃない。

だけど、この人には何をどう言っても伝わらないと思う。
彼らが私にくれた優しさや思いやりは、そんなものじゃない。だけど、それをどれだけ言葉を重ねて伝えても彼女には理解してもらえないだろう。


「ねえ眞人。あなたは今でも家族が欲しいんでしょう?  寂しかったんでしょう? だからこんなひとたちと暮らしてるんだわ。ねえ、私と一緒に帰りましょう? 私はあなたの欲しい物を知ってる。私が、全部あげるわ」


小紅さんが、眞人さんに諭すように言う。


「『華蔵』に、連れて帰ってあげる。もう、こんな馬鹿みたいな真似しなくてもいいのよ」

「……小紅」


長い沈黙ののち、眞人さんが口を開いた。それはとても静かな声音で、さっきまでの苛立ちや怒りは消えうせていた。
小紅さんが、にこりと笑う。


「なあに、眞人。やっと、私のいうことを聞いてくれる気になった?」

「俺の中の、お前に対する情が僅かでも残っている内に、帰ってくれ。憎みたくない」


彼女の顔から、表情が消えた。


「は? 眞人、何言ってるの?」

「もうお前のことは愛していないと言えば理解してくれるか? 俺はもう、お前のことなんて何とも思ってないよ」


はっきりと眞人さんが言うと、彼女は「嫌よ!」と叫んだ。


「どうして? どうしてこの間からそういう意地悪を言うの? いつだって私の我儘を聞いてくれたじゃない! 私が一番だって言ってくれたじゃない! もうやめてよ!」


立ち上がり、ヒステリックに叫ぶ。その顔にははっきりと「信じられない」と書いてあった。
彼女はここまで人を踏みにじる様な事をしていて尚、眞人さんに愛されていると思っている。