『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

呼吸がすうすうと、規則正しくなった。

私の頭に乗った手が、ずるりと落ちる。
背中に回された手も、力をなくした。


それを確認して、私はゆっくりと目を開けた。
夜目であっても、距離が近いせいもあって、眞人さんの顔がはっきりとわかる。
形の良い眉も、瞳も、すっと伸びた鼻も、ざらりとした髭も、手を伸ばせばすぐに触れられる。
頬に手の平を添えたら、温かさが伝わる。
指先を伸ばし、薄く開いた唇に触れた。
柔らかな吐息が、爪先を擽る。
するりと、涙が頬を伝い落ちた。


「う……」


『飼い犬』でもいいと、思ってた。
優しさを与えてくれればそれでいいと、思うようにしてた。

だけど、『飼い犬』の私は、この人が離れて行くとき、縋ることができない。
犬は、飼い主の選択を結局は受け入れるしかないのだ。

ああ、好きだと言えたらいいのに。
この温もりを『シロ』としてではなく『白路』として与えて欲しいと言えたら。
だからずっと傍にいてと言えたら。

でも、それを口にした途端、私はこの人を失ってしまう。

私が眞人さんの腕の中にいられるのは、『飼い犬』だから。
髪を撫でる手も、背中に回される腕も、笑顔も何もかも、『飼い犬』だからこそ与えられたもの。

この腕も、手も。
全ては『女』としての私の為にあるのでは、ない。

この人に、『女』として求められたら、それはきっとどんな幸せにも勝るだろう。
この人の全てが、私を求めて、愛しいと言ってくれたら、それはきっととても……。

ありえない幸福を夢見て、涙が溢れる。
眞人さんを起こしたくなくて、唇と強く引き結んで声を堪えた。

好きだよ、大好きだよ。
私はあなたの全てを愛しているよ。

だから、私を見て。
犬なんかじゃなくて、女として見て。

そう言えたら、そしてそれを受け入れてもらえたらいいのに。

『白路』を抱き寄せることのない手をぎゅっと握りしめて、私は静かに泣いた。