『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

眞人さんがふいに黙る。
私の髪を梳く。
ふわふわのアフロヘアは簡単に指を通さなくて、何度も引っかかった。

小紅さんの髪は、艶々だった。
緩く巻いた髪は、こんなにも指を拒否することはないだろう。
きっと、心地よくさらさらと流れるのだろう。

眞人さんは、そのさらさらの髪を思い出しているかもしれない。
あの、とても綺麗な人を愛した過去を。

ぐっと押しあがる感情を喉元で押し殺す。口から漏れ出ないようにぎゅっと引き結んだ。

これは、嫉妬だ。
醜い嫉妬。
消えろ。
消えろ。

私が自分の中のどす黒い感情の渦に反発していると、眞人さんがふっと息を吐いた。


「だけど、結果はさっきも話した通りだ。だから俺はもう、誰かを想いたくないし、想いを向けられるのも、嫌だ。きっと、怖いんだろうな。もう、あんな思いはしたくない」

「そ、っか」

「二度と、ごめんだ」


眞人さんの声音は、疲れている。本心からの言葉なのだろう。


「ねえ、眞人さん。私……」


私からの想いも、嫌かな。
そう言いかけて、慌てて口を噤んだ。


……どうして、自分だったら大丈夫だなんて思えるの。


こんな話を聞いておいて、私だったら別だと自信が持てる? 無理だよ。


「なんだ?」

「あ、ううん。なんでもない」


首を振って、眞人さんの胸元に顔を押し付けた。


「あ。ねえ、眞人さん。今度はちゃんと訊きたいことがある」

「ん?」

「……榊さんには、また会いたい?」


訊くと、眞人さんがすっと息を吸った。少しの時間を置いてゆっくり吐く。


「会えないよ、もう」

「……そっか」


会わない、会いたくない、ではなくて、「会えない」。
それは、眞人さんの意思が隠れてる。

眞人さんはいつか『華蔵』に戻る。
漠然とそう思う。
中途半端に終わった修行を最後までやり遂げたいと、戻る。
けれどそこには、かつて結婚まで決めた小紅さんがいる。

彼が小紅さんの元に戻るとき、それはどんな形だろうか。
そして、私は一体どうなっているだろうか。私という『飼い犬』は、捨てられてしまうのだろうか。


「黙りこくって、どうした? 眠たくなったか」


眞人さんが優しく言う。


「もう遅いもんな。そろそろ寝よう。付き合ってくれて、ありがとな」

「……ううん、いろんな話が聴けてよかったよ」


顔を押し付けたまましゃべると、声がくぐもる。
だからきっと、私の声が濡れていることなど眞人さんは気付かない。


「よし、寝るか。おやすみ、シロ」

「うん……おやすみ」


目を閉じて、呼吸を必死に整えて。そうして寝たフリをする。
眞人さんは私の頭を何度となく撫でながら、眠りに落ちた。