『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「シロの境遇を聞いた時、あんまりにも自分とダブるから驚いた。俺の親も物心つく頃には二人とも死んでいて、俺はこの家でじいさんたちに育てられてた」


おじいさん夫婦はとても大事に眞人さんを育ててくれた。
しかし眞人さんは上手く甘えることができない子供で、どこか一歩引いて接していたらしい。


「扱いづらい、可愛げのないガキだったろうなと思う。別に心を開いてないわけじゃないんだ。ただ、甘え方を知らなかった」


この家で、夫婦で定食屋を営んでいたおじいさんたちだったが、眞人さんが高校卒業を目前としたときに事故で亡くなってしまう。


「親類もいないし、寮に入った。仕事は最初はきついばかりで、あんまり楽しい場所ではなかったな。帰るところがないから、仕方がなくいたってところもある」

「そんなに、厳しいの?」


眞人さんは私を抱えるようにして抱き、時折ふわふわの頭を撫でながら話す。腕の中で訊けば、眞人さんは懐かしそうに「ああ」と言った。


「いつの時代だってくらい、しごかれた。真冬でもなかなかお湯を使わせてくれなくて、手があかぎれだらけ。特に、板長の榊さんって人が、そりゃあもう、スパルタでな。あのジジイ、いつかぶっ潰してやるって誓ってたくらいだ。だけど、あの人が作る賄がすげえ美味いんだ」

「賄の中で何が一番好きだった?」

「玉子丼だな。出汁がまず違うし、あと玉子な。あのふわふわと口の中で溶ける感じは今でも真似できない」

「わあ、食べてみたい!」

「ああ。食べさせてやりたいな」


眞人さんは、修行中の話を幾つもしてくれた。
先輩とこっそり寮を抜け出してファストフードの牛丼を食べに行ったことや、仕事をさぼって釣りに行ったこと。
それから榊さんにそれがバレて、こっぴどく叱られたこと。


「仕事にだんだん慣れてきて。でも、辛さがなくなったわけじゃなかった」


実の祖父母にさえ上手く甘えられなかった眞人さんは、誰にも心を許せなかった。
いくら仲が良くても、弱音を吐くことなど到底できなくて、体の中に言えない不満や不安が溜まって行く一方だった。


「そんな時、小紅に出会ったんだ。あいつは、俺が昔から欲しかったものを、埋めてくれた。勝手に人の中にずかずか入り込んで、温もりとか想いとかを押し付けてきた。それに、俺は本当に救われたんだ」


僅かに体が強張る。私を抱きしめている眞人さんにそれが気取られないよう、そっと息を吐いて力を抜く。


「あの奔放な笑顔があったから、頑張れた。それは、どれだけ感謝してもし足りない。俺がここまで成長できたのは、間違いなく小紅のお蔭なんだ。あんなことにならなければ、一生大切にしたいと思ってたよ」

「そ、か……」


声が震える。目の周りが熱くなって、潤む。

こんな告白、聞きたくない。
だけど、吐きだすことによって眞人さんが少しでも楽になれるのなら、私は聞く。
どれだけ苦しくなっても、最後まで。

苦しい思いを、この人にひとりで抱えさせたくない。