『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

かと言って、三個全部食べたのは、馬鹿の所業だったと思う。


「胃凭れしそ……つら……」


ずんと重たくなった胃を押さえつつ寝支度を整えた私は、洗面所から自室へとのろのろと戻ろうとしていた。


「ん?」


暗がりの廊下の中で、眞人さんの部屋から灯りが漏れ出ていた。


「まだ起きてる……」


時刻はとっくに日付変更線を越えているころだ。

眞人さんは毎日早起きをして市場へ行くから、なるべく早く眠ったほうがいいのに。
眠れ、ないのかな。いや、眠れないんだろう。
私なんかより遥かに、眞人さんの受けたショックの方が大きいはずだもの。
通り過ぎて自分の部屋に戻ろうとして、引き返した。そっと襖を叩く。


「はい?」

「私、だけど。開けてもいい?」


訊くと、「どうぞ」と短く返ってきた。
そっと襖を開ける。大きなベッドにごろりと寝そべった眞人さんが、顔だけを私に向けて「どうした?」と訊いた。
初めて入る眞人さんの部屋。余計なものは何もない、シックに纏められた空間だった。


「……眠れないんだろうなって、思って」


眞人さんの覇気のない顔を見て、へらりと笑ってみせた。やっぱり、眠れないんだ。


「……よし! 一緒に寝よう。寝ましょう」


言って、私はそのまま襖を閉めてベッドへと向かった。驚いた顔をしている眞人さんを押しやって、布団の中に身を滑らせる。


「シロ?」

「一緒に寝たら、きっと眠れる。私がお話聞くから、すっきりするまで話をしてよ」

「話を聞く?」

「そう。いつかの、逆。私もあの時、すっきりしたもの」 


眞人さんに横に来るように促すと、眞人さんは戸惑った顔をしていたけれど、ふっと笑った。
それから私の横に入り込んでくる。大きな体に、ぎゅっと抱きついた。


「ああ、あったかい。眞人さん、電気消してください」

「……ハイハイ」


クスリと笑って、眞人さんがリモコンを操作した。小さな音と共に、灯りが消える。
少しして、眞人さんが「どこから話そうか」と言った。


「どこからでも」


ふ、と眞人さんが笑う。


「そうか。じゃあ……俺も、誰かと一緒に眠ることを覚えたのは随分デカくなってからだった」


眞人さんはゆるゆると語りだした。