眞人さんがもう一度ため息をつく。それはとても頼りなくて、疲れ切っていた。
「そんな別れ方をしてるのに、どうしてここに顔を出せるんだか。しかもあんなに平然と戻って来てくれなんて、よく言える」
「確かに。常識知らずにもほどがあるよ、あのブス……」
梅之介が椅子の背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。
「ねえ、眞人。一応聞くけどさあ、小紅ってクソ女のことはさすがに吹っ切れてるよね?」
眞人さんが「さすがにな」と頷いた。それから、続ける。
「だけどだんだん、可哀想になってきてな。成長してないのが、哀れだよ。誰か、あの子のいいところや悪いところを全部ひっくるめて認めてやってほしいな。俺はもう無理だけど、幸せにしてやって欲しいと思うよ」
「そんな物好き、いるのかねえ」
「いて、欲しいんだよ」
男ふたりのため息が重なった。
「とりあえず、次に着た場合は追い払っていいんだね?」
「ああ。次は俺も、『華蔵』の御両親に連絡するよ」
「あ、あの! 私、今日はなんだか疲れたから、寝ます!」
叫ぶように言って、立ち上がった。椅子が思いの外大きな音を立てる。
「え? シロ?」
「な、なんかすごく疲れちゃって! お風呂使って、寝るね! おやすみなさい!」
驚いたような目をふたりに向けられる。
しかし私はそれだけを言うと、逃げるようにしてその場を離れた。
だって、どんな顔をして話を聞き続ければいいの。
小紅さんのことを語る眞人さんの、憎み切れないという表情を目の前にしながら、平然を装うのはもう限界だった。
お風呂だと言えば、ふたりは無理に追って来ない。
それが分かっていた私は、そのまま隠れるようにお風呂場に籠もった。
熱いお湯に浸かって、深く息を吐く。
天井をぼんやりと眺めながら、今日一日の間で怒ったことを反芻する。
何度も、胸がぎりぎりと痛んだ。
「戻りたい、のかなあ……」
ポツンと吐きだす。それは湯気の中に掻き消えた。
小紅さんとの話を聞くのは、辛かった。
吐き気すら覚えたし、梅之介の気遣いがなければあの席を言葉もなく逃げ出していたかもしれない。
大好きな人が誰かを深く愛した。
その過去を本人の口から聞くには、私はまだ覚悟が足りなさすぎた。
辛い、それ以外の言葉が見つからない。
しかし今、気にかかることがもうひとつあって、それは眞人さんは『華蔵』に戻りたいのではないかということだ。
眞人さんは、『華蔵』に戻って、中途半端に終わった修行をやり遂げたいんじゃないだろうか。
だって、『華蔵』でのお仕事の話をしている時の眞人さんの顔は、辛いと言いながらも楽しそうだった。
だけど、『華蔵』に戻るというのは小紅さんの元に戻るということでもあって。
「うー……」
お湯に顔を埋め、唸る。
あんな人の元に、眞人さんを行かせたくない。
だけど、私には何も言う権利はない。
だって私はただの『飼い犬』なんだもん。飼い主の人生に、意見なんてできない……。
「そんな別れ方をしてるのに、どうしてここに顔を出せるんだか。しかもあんなに平然と戻って来てくれなんて、よく言える」
「確かに。常識知らずにもほどがあるよ、あのブス……」
梅之介が椅子の背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。
「ねえ、眞人。一応聞くけどさあ、小紅ってクソ女のことはさすがに吹っ切れてるよね?」
眞人さんが「さすがにな」と頷いた。それから、続ける。
「だけどだんだん、可哀想になってきてな。成長してないのが、哀れだよ。誰か、あの子のいいところや悪いところを全部ひっくるめて認めてやってほしいな。俺はもう無理だけど、幸せにしてやって欲しいと思うよ」
「そんな物好き、いるのかねえ」
「いて、欲しいんだよ」
男ふたりのため息が重なった。
「とりあえず、次に着た場合は追い払っていいんだね?」
「ああ。次は俺も、『華蔵』の御両親に連絡するよ」
「あ、あの! 私、今日はなんだか疲れたから、寝ます!」
叫ぶように言って、立ち上がった。椅子が思いの外大きな音を立てる。
「え? シロ?」
「な、なんかすごく疲れちゃって! お風呂使って、寝るね! おやすみなさい!」
驚いたような目をふたりに向けられる。
しかし私はそれだけを言うと、逃げるようにしてその場を離れた。
だって、どんな顔をして話を聞き続ければいいの。
小紅さんのことを語る眞人さんの、憎み切れないという表情を目の前にしながら、平然を装うのはもう限界だった。
お風呂だと言えば、ふたりは無理に追って来ない。
それが分かっていた私は、そのまま隠れるようにお風呂場に籠もった。
熱いお湯に浸かって、深く息を吐く。
天井をぼんやりと眺めながら、今日一日の間で怒ったことを反芻する。
何度も、胸がぎりぎりと痛んだ。
「戻りたい、のかなあ……」
ポツンと吐きだす。それは湯気の中に掻き消えた。
小紅さんとの話を聞くのは、辛かった。
吐き気すら覚えたし、梅之介の気遣いがなければあの席を言葉もなく逃げ出していたかもしれない。
大好きな人が誰かを深く愛した。
その過去を本人の口から聞くには、私はまだ覚悟が足りなさすぎた。
辛い、それ以外の言葉が見つからない。
しかし今、気にかかることがもうひとつあって、それは眞人さんは『華蔵』に戻りたいのではないかということだ。
眞人さんは、『華蔵』に戻って、中途半端に終わった修行をやり遂げたいんじゃないだろうか。
だって、『華蔵』でのお仕事の話をしている時の眞人さんの顔は、辛いと言いながらも楽しそうだった。
だけど、『華蔵』に戻るというのは小紅さんの元に戻るということでもあって。
「うー……」
お湯に顔を埋め、唸る。
あんな人の元に、眞人さんを行かせたくない。
だけど、私には何も言う権利はない。
だって私はただの『飼い犬』なんだもん。飼い主の人生に、意見なんてできない……。



