「...坂田先輩」


「えっと、なんかその...大丈夫?」


「え、」


「なんかいつもと違うような気がして...あ、ち、違ったらごめん」



気づかれていた、んだろうか。今まであんなに表に出さずに生きていたのに、その方法を、急に忘れてしまったみたいだ。

勘付かれていたとはいえ、正直に話すなんてできない。



「別に何もありませんよ。ただ、最近集中力なくて。心配してくれてありがとうございます」


「...なら、いいんだけど」



たぶん、まだ疑っているんだろう。それでも俺は、話そうという気にはなれなかった。誰かに知られたって、好きな相手に伝えない限り何にもならないと思うし。


言わないという意志が伝わったのだろうか、坂田先輩は諦めたように一息吐いた。



「あ、じゃあ、集中できないなら準備室に画材があるんだけど、取り出すの手伝ってくれない?あたしじゃたぶん届かないんだよね」


「え、でももうすぐ部活時間終わりますよ」



時計をちらり、横目で見れば、もうあと10分程度で最終下校時間。



「明日来てすぐに絵が描ける状態にしておきたいの。ね、お願い」


「...わかりました」



少しでもこの場を離れられるなら、と思い、俺は席を立った。