歌が運ぶ二人の恋

こいつ、予想以上の世間知らずだ。

「うーん、でも正宗ってどっかで聞いたような?」

「どこにでもいる名前だろ?」

「いや、居ないと思うけど」

「もう用は済んだ。俺は帰る」

再びフードを被り、店のドアへと向かう。

「また来てよ、正宗」

いきなり呼び捨てにされて胸が高鳴る。

「う、うるせーよ!いきなり呼び捨てとか有り得ないし」

「いいじゃん」

こ、こいつ。

この女は、やっぱり嫌いだ。

「気が向いたら来てやるよ蘭!」

思いっきり大声で言ってやり、店を出た俺は家に向かって歩き出す。

「今、蘭って言ったような?」

女に呼び捨てにされたのは久しぶりだった。

あの人以外に。

「涼介、会えたかな?」

俺の心の中に初めて入ってきたあの人にーー