歌が運ぶ二人の恋

【正宗】

今の蘭の傍を離れることなんて、俺には出来ない。

「正宗だって分かるでしょ?大切な人が死んだ時、一人になりたいって思わなかった?」

「それは――」

蘭の言う通り、一人になりたいと思った。

一人になって色々と整理したいこともあった。

だけど、一人になって分かった。

一人でいると辛さと悲しさで押し潰されそうになること。

「俺は、葵さんに頼まれたんだ。お前の傍に居てやってくれって」

「頼まれて傍に居られても、そんなの嬉しくないよ!」

蘭の言葉が俺に刺さる。

「お願いだから帰って!」

部屋の中に蘭の声が響く。

「……分かった」

俺は、手首を掴んでいた手を離し、部屋から出て行った。

俺は全然知らなかった。

蘭がどれだけ葵さんを愛していたのかを。

ちゃんと話すべきだったんだ。

葵さんのことを全部ーー。

「今の俺には、蘭の傍に居る資格なんてない」

今の蘭の状態は、姉さんが亡くなった時の俺に似ている。

その時、俺はどうしていた?

「ちくしょっ!」

なんで俺は、大切な人の傍に居てやることすら出来ないんだ。

顔を伏せた時、俺の目から一粒の雫が落ちた。