歌が運ぶ二人の恋

「蘭、そろそろ収録始まるよ」

「うん、分かってる」

スマホの画面を見ると、そこにはお兄ちゃんと名前が写っていた。

「もしもしお兄ちゃん?用事があるなら後でいいかな?これから収録が」

『大変だ蘭!』

電話越しでお兄ちゃんの大きな声が聞こえて驚く。

「何が大変なの?」

『母さんが!!』

「えっ……」

その時、私の頭の中が真っ白になった。

「どうしたの蘭?」

里音が傍に来て、私の手が震えていることに気づいた。

「蘭!」

私は、電話を切って里音を見る。

「どうしよう里音」

涙が後から溢れてくる。

「お母さんが……」

自分の顔を覆って、私はその場に座り込む。

「葵さんがどうしたの?」

「お母さんの……、容体が悪化して……。今集中治療室に入たって……」

「でも、葵さんは過労で入院してたんじゃ?!」

「分からない……、分からないけど……、それを聞いたら怖くなっちゃって」

足が動かない。

「蘭の馬鹿!そんな事言ってないで行かなくちゃ」

「そうですよ蘭さん!」

「後のことは私たちに任せて、お前はいけ!」

「里音、心愛ちゃん、優……」

私は、涙を拭って動きそうになかった足を無理矢理動かした。