歌が運ぶ二人の恋

「そう言う正宗だって、蘭ちゃんに告白しなくていいのか?」

「はっ?!な、何で俺があいつなんかに!」

な、何で涼介が知ってるんだよ、もしかしてみんな知ってるのか?!

「嘘言っても無理だよ、僕たちみんな正宗のこと応援してるんだからさ」

「……っ」

今すぐこの場から離れたい。

「自分の気持ちに正直になりなよ」

「分かってるさ、そんなことぐらい。だけど、自分の気持ちを言うのが怖いんだよ」

「大切に思っていた人を、また失うのが怖いからか?」

「そ、それは……」

そんなの決まってるさ、姉さんみたいに蘭も消えたらって思うと、自分の気持ちを言うのが怖い。

「でも、正宗は前に言ってただろ?」

「なにを?」

「お姉さんが亡くなった時、ありがとうって気持ちを伝えたかったって、言えなくて凄く後悔したって」

涼介に言われ、昔の記憶が過ぎる。

姉さんは、親から暴力を振るわれてた俺をいつも助けてくれた。

俺と違って勉強も何でもできた姉さんは、酢練李家の中で期待されていた。

俺も幼かったから、姉さんを目標にして生きてきた。

だけど、俺は十歳のとき家を飛び出した。

親からの暴力を振るわれるのを嫌になったからじゃない。

母さんが俺を愛していない事を知ったからだ。

どんなに殴られても、母さんは俺を愛してくれている、必要としてくれているって思った。

だけど、母さんはそんな俺の思いを裏切った。

母さんは、姉さんだけ居ればそれでいいんだと、俺の存在なんてなくていいだと、俺に直接言ってきたんだ。

その日は、酷く雨が激しくて降っていて、雨が激しく降る中泣きながらひたすら走った。