歌が運ぶ二人の恋

「良かったです、貴方のその返事を聞けて」

「葵さん?」

「これで、思い残すことはもうないかもしれない」

この時、俺は確信した。

葵さんは過労で入院しているんじゃなくて、それ以上に重い病気にかかって入院していることを。

「葵さん、蘭には言ったんですか?貴方が過労以外のことで入院していることを」

「あの子には、何も説明していません」

「なんで?!」

なんで蘭に何も言っていないんだ。

もし俺の予想通りの病気を抱えているなら、なんでそのことを蘭に話さないんだ?!

「あの子には、これまでに何度か心配をかけてきた事があって、もうこれ以上蘭には心配させたくないのよ」

「そんなの間違ってる!蘭は、葵さんが無事に退院して帰ってくることを望んでるんですよ!」

「今の私の状態を蘭に話したら、あの子は今の自分を捨てることになる、やっと見つけた夢を捨てることになる、そんなことはさせたくないのよ」

母親は、優秀な子供しか求めていなくて、そうでない子供は捨てる存在だとずっと思ってきていた。

だけど、葵さんはこんなにも蘭のことで悩んでいる。

蘭に心配をかけさせたくなくて、真実を隠している。

この人の選択があっているのかは俺には分からない。

「葵さん、俺に何かできる事があったら言ってください!」

「ありがとう正宗さん、でも私から正宗さんにお願いしたいことは、一つしかありません」

「一つしかないって?」

「もし私が死んでしまったら、蘭の傍に居てあげてください」

「蘭の傍に?」

これが、俺にできることなのか?

だとするなら、俺は蘭の傍に居る。