一刻も早くこの場から立ち去りたかったのだろうが、


「ぞうきん、いいの?」


私は、意地悪――いや、親切に声をかけてあげた。


「…………」


吉崎は一瞬固まったが、無言のまま、ものすごい勢いでダンボールから雑巾を取り出すと、あっという間に出て行った。



「結衣、大丈夫?」

「ケガ、ない?」

「……うん」


結衣の無事を確認して掃除を再開すると、


「でも、さすが吉崎、だよね」


真紀が声を弾ませた。


一瞬、真紀も吉崎の恋心に気づいていたのかと思ったが。


「S中野球部の盗塁王――あの瞬発力がなかったら、結衣、マジでヤバかったよ」


やはり気づいているのは、私と悠斗だけのようだ。