<佐伯美桜>


結衣と吉崎がつき合い始めてから、結衣と一緒に帰ることはなくなったが。


帰宅後、私か結衣か悠斗の家に3人集まって受験勉強をするようになった。


悠斗が、一人だと寝てしまうというので、3人でやることにしたのだ。




「聞いて~、修ちゃんも、K高が第1志望なんだって~」


こんなふうに毎日、結衣は嬉しそうに吉崎の話をし、悠斗はそれを勉強している振りをしながら黙って聞いていた。


「ねえ、夏休み中、修ちゃんも一緒に勉強して、いい?」


結衣が切り出すと、


「は? なんで?」


悠斗は即座に反感を示した。


「だって、そうすれば、毎日修ちゃんに会えるでしょ」


結衣の心を占めているのは、吉崎への想いだけ。


それを目の当たりにして、悠斗が――幼なじみの男の子が傷ついているなんて、思いもせずに。


「だから、お願い――ねっ」


結衣が顔の前で手を合わせて可愛らしく悠斗をみつめると、


「……しょうがねぇな、ったく」



悠斗、陥落――。


昔から、結衣の「お願い」には弱いのだ。