ビスケットもハンカチも出てこなかったので、自分の持ってきていたミニタオルで拭いた。

「誰も取らないよ。俺、地味だし」

「アキがどんなに根暗オタクで地味でも、みんなそこばっかじゃないの知ってるもん」

「今悪いところ助長しなかった?」

「あたし、アキのこと好きだよ」

今度はちゃんと目を見て言えた。

夏、お祭り、ソースの匂いに包まれて。
まるでベタなドラマみたいで、可笑しな感覚だった。

ぽつり、と髪に雫が落ちる感覚があった。

何か、と見上げると空は煙ではなくて雲が覆っている。
今日のうちは晴れだって、来る前に天気予報を見てきたのに。