玄関から鍵の開く音がした。

「ただいまー」

ナッコちゃんの声がする。あたしは床に足をつけて立ち上がろうとした。

腕をアキの方に引っ張られる。

上体だけじゃなくて体全部の重心がズレて、持っていかれる。顔が近づいて、自分の視線が無意識にアキの耳へ向いた。

反射的に顔を逸らす。
アキが覆い被さってきていた。

「……なに?」

「祈璃を支えに立ち上がろうとしたらよろめいた」

「無理に決まってんじゃん!」

「失礼しました」

アキが起き上がって、あたしが起こされる。

階下から「いのりん、夕飯食べてくー?」と聞くナッコちゃんの声がした。


end.
20150421