あたしはお礼が言いたくて。

毎年4月1日、桜祭りの日はこの桜の下に来た。

でも、あの日以来少年に会うことはなくて。

いつしか、少年自身が幻だったのかなと思い始めてきた。



でもこうして、通うことをやめないのは。

…少年のことが、好きだから。

どこの誰かもわからない、1度きりの少年に恋をするなんて、自分でもどうかしていると思う。

でも、あたしは通うことをやめない。

この気持ちを恋と取って良いのか、それが知りたいのだ。





「…帰ろ」



でも、あの日から少年には会えないまま。

あたしは去年や一昨年と同じように、桜広場を下りて行く。







ビョォッ……




すると突然、凄く強い風が吹いた。

地面に散った桜が、舞い上がるぐらい強い風。

あたしの周りにいた人も、「ワァッ」や「キャァッ」と声を上げる。

あたしは、勢いで目をつぶった。






「…ソノ願イ、叶エタリ」




この世のモノとは思えないほど綺麗な声が、響いた――――…。