「僕は逆らうなど、命を捨てるような真似はしません。
この怪我は…逃げるときに、出会ってしまって……」

「三神王政に会ったの?」

「いえ。
会ったのは……三神家のご子息です」

「息子?
じゃあその人が、三神王政なの?」

「違います…」




遠矢くんはそれ以上、話そうとしなかった。

その瞳は哀しく潤んでいたので、あたしも詳しく聞けなかった。





遠矢くんは、もしかして…。





弟さんを殺された以上の哀しみを背負っていたりするのかな?

もしかして、三神家と関わりがある人間だったりする?

例えば…三神家のご子息の友達だとか。

家族が昔、三神家に仕えていたとか。





「遠矢くん。
何かあったら、あたしに言って」

「え?」

「あたしのこと聞いてもらうって、約束したでしょ?
だから、遠矢くんのこともあたしは聞く」

「……小町さん…」

「あたし、桜みたいな遠矢くんの笑顔、守りたいもん。
この桜の木に、誓ってみる!」




遠矢くんは頷く代わりに、優しく微笑んだ。