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「……須藤、やり直しだ」

「え?」


謹慎生活一日目の終わり、私が書いた反省文を受け取った佐伯はしばらくそれを眺め、それからいつもの嗄れ声でそう言った。

何が悪いのか分からなかった私は首を傾げるが佐伯は答えるつもりは無いらしい。


心にもない謝罪の言葉を並べたその反省文は力作のつもりだったのに……
いや。拓真にも怒られたけど、手を上げてしまったことだけは私が悪かったと思ってはいる。
だから心にもない、というわけでも無い。

私は“暴力はいかなる場合も悪”だなんてことが、正しくないことに気が付いている程度には子供ではない。
正当防衛もあれば、言葉ではどうしようも無い事もある。

物理的な暴力よりも残酷な暴力がある事も知っている。
目に見える傷よりも、目に見えない傷の方が痛い場合もある。

それでも、私は手を出すべきでは無かった。

私は自分の立場を、環境を、よく理解しているつもりだった。
私はいつだって、少しでも自分に不利なことをすれば悪く言われる身の上だ。人に理解されにくい環境で生きてきた。

それは幼い頃からずっと。

それでもそれを恥ずべきものでは無いと証明する手段は、私が正しいと思われる事をし続けることしかない。


そんな事は、とうの昔に学んだ処世術だった筈だ。

それなのに横井の言葉に感情的になった私は悪かった。


私は今も、横井の言葉も彼女自身も不快に思ってはいた。

それでも、その気持ちには一言も触れず言い訳も何もせず、感情的になったこと、暴力をふるったことに対する反省を切々と綴った反省文は我ながらよくできたと思っていたのに。


「とりあえずこれは預かっておこう」


原稿用紙3枚にしっかりと書き込んだ私の反省文を佐伯は几帳面にファイルに挟み込んだ。


足りなかったとすれば、横井の母親への謝罪だろうか。

私は横井を殴ったこと自体は悪かったと思っている。けれどそれ以外には悪かったところは無いと思っていた。
だからそれを書けば、嘘になる。

私はこの難題に頭を悩ませることになった。