ポタリと、足元に滴が落ちた。
それが私の瞳から零れ落ちる感情の一端なのは分かってはいた。

それでも私は、それを拓真に知られたくなくて拭いもしなかった。

街灯がついているとはいえ、もう暗いから、きっと拓真は気が付かない。
目をこすったりすればきっと、拓真に気が付かれてしまう。

涙が零れ落ちきるまで、私はこうして下を向いていれば、きっと何も拓真は気が付かない。


「良かった……」

「は!?」


そう思ったのに、私はホッとしたように言った拓真の声に驚き顔を上げてしまった。
拓真の後ろの街灯が私の顔に向けてスポットライトを当てて、拓真は私を見て苦笑した。

私は慌てて頬に残る水の筋を乱暴に制服の袖で拭った。


「いや。あの場で聞いてたらきっと俺が殴ってたよ……」


そんな私に拓真はクスクスと、私をいつも苛立たせる楽しげな笑い声をあげて。


「……さすがに、あんたが女子高生殴ったらダメじゃない?」


呆れる私にそれはそうだと言いながら、上機嫌に歩き出した。

私は溜息を吐く。
感情的になってしまったこと、拓真の言葉に無性に安心してしまったこと。そこから生まれる恥ずかしさをを押し隠すための溜息は我ながら少しわざとらしい。


拓真の背中をじっと見つめながら私も歩き出した。

カラカラと、自転車のチェーンの音が響き始める。