砂の鎖

拓真は私に、薄く微笑んだ。
場違い程、柔らかい微笑みだ。


「あの場で聞くわけにいかなかったからね……」

「……は?」


訳が分からない拓真の言葉に私の不快感は更に増す。

この期に及んで私を子ども扱いして煙に巻こうするのだろうか。


「だってあずが理由も無く人を殴るなんてするわけないだろ」

「……」


けれど拓真は笑顔のままそう言った。


「あのお母さん見てれば、何となく想像ついたし……聞いたら俺が冷静でいられないかもと思ってさ」

「……」


拓真の優しい声に、私は睨み付けることができなくなり俯いてしまった。


ぼんやりとした足元の影が薄くなる。

夜が近づき影が濃くなるからだ。


光が消えれば影は消える。
闇にまぎれれば見たくないものも見えにくくなる。


だからいつも、夜は優しいのだ。


「……あいつ……」

「うん」


私は、自転車のハンドルを力いっぱい握りしめた。


薄暗くなり始めた道の街路灯が空気を読むことなくパッと灯った。

その途端また、足元の影は濃く輪郭を作った。

いくつも並ぶ街路灯のせいで、影は四方にまとわりつくように伸びる。