砂の鎖

***

いつの間にか雨は上がっていて、雲の隙間から太陽の赤い光が鈍く覗いていた。

薄朱に染まる空は暴力的だ。

足元から消えないくせにはっきりとしないぼんやりとした長い影がまとわりついてくる。
どこに行ってもついてくるそれは、私の周りに取り巻く偏見と変わりないと思えて煩わしかった。


「あず」


自転車を引く私は拓真と二人、家路を歩く。
拓真とこんな風に歩く事は珍しかった。

私と拓真は一緒に出歩く事は殆ど無い。
いや。無くなった。

ママが生きていた頃は何度か三人で出かけたし、拓真に車を出させ買い物に二人で行くこともあった。
ママが死んでから、私は拓真と二人で出かけることを拒否するようになった。

理由は自分でも、分かっている様な気もするし、分かっていないような気もする。

拓真は、しばらくはしつこく誘ってきた。
『周りの友人で父親と二人で出かける女の子はいない』と私が言えば、『反抗期の娘の扱いは難しい』
と何故か少し嬉しそうに笑いながら一緒に出歩く事は諦めた。


「何があった?」


拓真は私に静かに聞いてきた。

その声は、もういつもの拓真だ。
甘ったるく情けない拓真の声だ。

さっき生活指導室で見せた、知らない男の人の様な、まるで他人の様な拓真ではない。


「……なんであんた来てんのよ」


私は苦々しく口を開いた。


「は? 父親なんだから当然だろ?」


拓真は場違いなほど素っ頓狂な声をあげる。
私の胸のうちのもやもやとした感情は消えることは無く、拓真を睨み付けた。