砂の鎖

「失礼します」


その瞬間、ノックの音とほぼ同時に教室のドアがガラリと開いた。
一瞬、場が水を打ったように静まった。


「須藤亜澄の保護者です」


そう言って、一礼して生活指導室に入ってきたのは拓真だ。

スーツ姿の拓真で背筋をただす拓真はいつもの家で見せる顔とは違っていた。
落ち着いた声を拓真は出すけれど、額に僅かに滲む汗に彼が急いでここに来たことは分かる。

私は気まずさから、苦虫をかみつぶしたような心持ちになり視線を足元に落とした。


「……あら。噂通り随分若いのね。加害者のお兄さん?」


私が“あの”須藤の娘で“噂通り”というくらいなのだから、横井の母親には下賤な噂話は耳に入っている筈だ。
それなのに、彼女はそう言う。


「私のことと、この人は関係なくないですか?」

「亜澄!」


私の不機嫌な声を諌めたのは横井の母親でも教師たちでもなく拓真だった。
いつも甘ったるい声で“あず”と呼ぶ拓真とはまるで別人だ。


「兄ではありません。私が亜澄の責任者です」


拓真はそう言って、彼らの前に足を進めた。


「……亜澄が他の生徒を殴ったというのは事実ですか?」

「当たり前でしょう!」

「それは事実だと本人も認めていますが、事情を話そうとしないんですよ」


拓真の質問に横井の母親と田中が勢いよく返す。


「……そうですか……」


けれど拓真はそれに同じ調子で勢いづく事は無く、静かにそう言って横井を見ただけだった。
横井は、頬に手を当てて俯いて肩を震わせる真似をしてみせた。


「うちの亜澄が、よりによってお嬢さんの顔に……申し訳ございませんでした」


拓真は静かに、深く頭を下げた。

背筋を伸ばしたままとても深く綺麗に体を折る拓真。

その行為に、私は驚いてしまった。
私は何故か、裏切られたような気分になった。