砂の鎖

確か小学校の低学年だったと思う。
授業で「お母さんのにおい」というテーマで作文を書かされたことがあった。

ほとんどの子が「せんたくのにおい」とか「お日さまのにおい」とか「おみそしるのにおい」と書く中、私は「タバコとお酒のにおい」と書いて若い女の担任に呼び出された事があった。
こういう事を書いてはいけないと怒られた。

自分の家庭環境が人とは違うのだと、初めて気が付いたのはその時だった。


ママはいつも、縁側や換気扇の下で煙草を吸っていた。

真っ赤な口紅で気怠く煙草を吹かす女性。

そんな彼女を思い出し、私はそっと煙をゆらゆらと吐きつづけるそれに口をつけてみる。
少し、心臓が高鳴った。

ママの口紅をこっそり塗った、幼稚園児の様なあの昂揚感。

そっと息を吸えば、喉に形のない煙がまとわりついた。


「ゲホッ……う……」


思いっきり、むせた。


「まず……なにこれ……」


煙が染みて涙が出てきた。
ママはこんなもの吸ってたんだ。味音痴にもなるはずだ。