砂の鎖

二時間も寝てしまったにもかかわらず食欲は特にわかず、ぼさぼさになった頭を掻いてどうしようかと考えた。

拓真は、何時ごろに帰るのだろうか。
メールが入っているだろうかとスマホを探したけれど見つからない。
そうだ。さっきソファに投げつけたんだった。


「めんどくさい……」


私はスマホを探すのを諦めて、一人の家の中で泥棒のように足音をたてないように気を使いながら仏間に滑り込んだ。

仏間は、元々ママの衣装部屋だったところだ。

ママの遺品はいまだ整理されていない。
私にも拓真にも、それは荷が重すぎる仕事だったし、この家の主である彼女のものを片付けるのは罪悪感があったからだ。

今も、ママのクローゼットには誰も袖を通さないきらびやかなドレスやアクセサリーが所狭しとしまわれている。


その中から、私は小さな引き出しをあけた。
ママが鍵とかよくつける時計とか、そういう日常の小物を入れていた引き出しだ。

私は小さなギラギラとスパンコールがついたピンクのポーチを鷲掴み小さな裏庭に面した縁側に出た。

その中には、セブンスターの吸いかけの煙草とシルバーのオイルライターと透明のピンク色の百円ライターが入っている。


(まだつくのかな……)


私はオイルライターの方を手に取った。
片手に丁度収まる大きさのシルバーのオイルライターはユリの花が彫り込まれていて、片隅に『sohya』と小さくブランド名が入っている。
ママがよく使っていたのはこちらだ。

子供だった頃の私には、このオイルライターは何だか魔法のアイテムの様に見えて、すごく素敵なものだと思っていた。
今も手に持つと少しずしりと重量感がある。

独特の金属音を響かせて開いたそれを点火しようと、フリントホイールを勢いよくすってみるけれど、年月で油が揮発してしまったのだろうか。

何度繰り返しても火がつくことはない。

諦めて今度は百円ライターを手に取ってみた。

こちらはどこにでも売っている半透明のピンク色のものだ。やけに軽くつまらない。
今度はカチっと音がして、簡単に火が灯った。
ライターの火を煙草の先に近づければ、チリチリと赤くなり、やがて暗闇にぼんやりと赤い光がともる。

ふわりと、紫煙が夜闇に漂った。