砂の鎖

我が家の八畳しかないリビングダイニングに向かえば、炊き立てのご飯とみそ汁の匂いが鼻腔をくすぐる。
今日の朝食は和食らしい。


「あず。ご飯の前に……」

「分かってる」


拓真はいつだって、私が声をかけるよりも先に私の足音に気が付く男だ。

振り向いた拓真を私はぼんやりと眺めた。

彼はグレーのズボンと薄いグリーンストライプのYシャツを汚さないように紺色のエプロンをかけてキッチンの前に立っている。
Yシャツには、皺ひとつついていない。
けれどチラリと見えるネクタイがYシャツと同じストライプ。
しかも模様の赤はYシャツとちぐはぐだ。季節外れのクリスマスみたい。


「拓真。そのネクタイ微妙」

「え。そう?」

「濃い緑のシンプルなやつの方がいい」

「そっか……」


人がせっかく気合いを入れてアイロンをかけたYシャツを台無しにしないでほしい。

いつもボーっとしていてにこにこしている拓真は頼りないけれど、黙ってれば見てくれだけは悪くない。
それなのに、拓真は自分の見てくれにあまり興味が無いようだ。

口を出さなければちんどん屋の様な格好で外に出ていきそうで怖い。


私の言葉に、拓真は何故かいそいそと一階の主寝室に戻っていった。


その隙に、私はリビングと隣接した四畳半の仏間に滑り込んだ。


いつも通りに百円ライターでろうそくに火を灯す。
仏壇の前には炊き立てのご飯とみそ汁、シャケの切り身が小さくほぐされままごとセットの様な小さな食器に入れられていた。
これが、今日の朝食のメニューらしい。

線香をたてて鈴を鳴らせば、冷涼な音が朝の空気に静かに響いた。