砂の鎖

「亜澄」


その瞬間、小さく聞こえたその声に私の肩は小さく跳ねて、慌ててそれを押し戻した。
ガタンと分厚い書物は思った以上に鈍い音を立てて元の位置に戻る。


「真人……早かったね」

「何してんだよ。こんな小難しいコーナーで」


真人は少し呆れた様な驚いた様な顔で周りを見回してから私の手があった場所を一瞥した。

私がいた場所は書棚の横に『3 社会科学』と書かれたコーナー。
政治やら経済やら、確かに真人の言葉通り小難しい本が並んでいた。


「真人が来るまで何かないかなと思って探してたんだけど……」

「何かあった?」


真人の語尾に、“こんなところに”という声が聞こえる様な気がした。


「ううん。特に」


私はニコリと笑顔を作ってから立ち上がり、真人の傍に駆け寄った。


「真人、汗臭い……」

「タイムセールが始まると思って急いできたんだろ……」

「あはは。ごめんごめん」


思わず、声が少し大きくなってしまい、チラリと図書委員の先輩が顔を上げたのが書棚の隙間から見えた。

真人と二人、顔を見合わせて人差し指を口の前に持ってきてからクスリと笑いあった。