砂の鎖

高校の図書室は入口付近に長机が並べられている。
机の周辺は腰窓までの低い書棚ばかりだけれど奥は身長よりも高い木製の書棚。
そこに本が分類されて収められている。



高校に入学して初めて図書室に足を向けた時、少し嬉しくなったことを覚えている。

図書室に必ずある書棚が木で作られた古ぼけた、そしてとても背が高い棚だったからだ。
中学校の図書室はスチールの軽く頑強な安全性に優れたもので、入学当時私は密かにがっかりした。

私はスチール製より木製の書棚が好きだ。
植物から作られた紙でできた書物が収められている様がとても自然に思えるからだ。


そして、書棚は背よりも高い方がいい。

子供の頃は自分の背が低かったからそれが当たり前だと思っていた。
背の高い書棚に囲まれると、まるで森の中に迷い込んだ様に思える。

書棚が木の幹。木を彩る葉や花が書物。印刷されている文字は種だ。

そして私たちはその種子の一粒一粒を噛みしめる。
種は読み手を宿主に知識として新たな命を芽吹く。


創世記に出て来るアダムとイブが食べたとされる知恵の実は、きっとこんな形だったに違いない。
それは、食べることを神から禁じられた禁断の木の実。

その実を口にし、善悪を知った人類は楽園から永遠に追放された……



私は想いを馳せながらゆっくりと歩き、本の背表紙をひとつひとつ目で追いかける。


ふと、ひときわ分厚い本の背表紙が目に入った。

読む人は殆どいないのだろう。
書棚の一番下に収められ、手垢は殆どついてない新品同様の格式高い本だ。


それは、私にとっての禁断の実だ……

引きつけられるように無意識に、私はその本に手をかけた。

どくん、と。心臓が一つ大きく脈を打つ。

そっと、背表紙の頭に指をかけそれを手元に引き寄せようと本を傾けた。