砂の鎖

(あれ……?)


今日の板書したノートと見比べながら順調に問題を解いていた私は、最後の一問で躓いてしまった。

単純に公式を使おうとしても上手く使えない。
暫く考えるがどうにも分からない。


「須藤、それは今日の課題か?」


抱えた頭の上から嗄れ声が落ちてきた。


「佐伯先生」


なんてタイミングがいいのだろう。
顔を上げた私の目の前に立っていたのは初老の教師。

今日の図書室の見回りは数学の佐伯だったらしい。


「質問してもいいですか?」

「答えは教えんぞ」


周囲を気にしながら小さな声で問いかければ、佐伯は口角を少し歪めるように表情を変えた。

年寄で堅物の彼は生徒に媚びるという術を持っていない。
生徒の人柄を課題の提出状況で判断するから、気難しいと生徒たちから煙たがられている彼が私は決して嫌いではない。

校内に限って言えば、成績上位の私を佐伯はそれなりに評価してくれるからだ。
ヒョロヒョロと骨と皮だけで表情が余り変わらない、難しい印象の教師だった。


「この問題はな、ややこしく見えるが意外に簡単に解ける良問だ。数学的思考力を学ぶのにちょうどいい。まずこの落ち着いて文章通りに図形を書いてみなさい。きちんと図を書かないと余計ややこしくなるぞ」


よく意味が分からない前置きと共に淡々と内容を解説する佐伯。
その言葉に私は定規を取り出し几帳面にラインをノートに書き入れた。

直角三角形の中に描く内接円を綺麗に書くのは難しい。
その中心点から次々に直線を描いていく。
その後は、円と接点を結んでいく……

自分の手で書いているなんて思えない。なんとも複雑で更に頭を抱えたくなる図形がノートに浮かび上がってきた。