砂の鎖

早世した商売女の娘で悪い噂の絶えない私と、裕福な開業医の息子で陸上部のエースの真人。
私たち“お付き合い”は清純そのもので、一ヶ月経った今でも手をつなぐので精いっぱいで、真人はキスひとつしてこない人だった。

私も私で、実は誰かと付き合うというのは初めてのことで……
恋愛経験は真人以上に無い筈で……

密かに緊張していたからホッと心地よい関係に甘んじていた。



「今日の帰り、一緒に帰れる?」

「真人部活だよね?」

「……彼氏の部活を待ってようっていう乙女心は無いのか?」


そう言って、不貞腐れる真人に私はクスクスと笑って空になった弁当箱にふたをした。

今日以上の乙女心溢れる弁当を作れるようにならなきゃ、さっき吐いた小さな嘘が真人にばれてしまうなと思いながら。


「数学の宿題出たら、図書室で勉強してるよ」

「……今この学校で俺ほど数学の宿題を楽しみにしてる生徒はいないと思う」


そう言った真人に、私は笑った。


「五時半からスーパーのタイムセールがあるから、それには間に合うように帰りたいな」


了解、と言った真人の声と、昼休みの終わりを告げる予鈴の音が重なって青空に溶けた。