砂の鎖

「……ねえあず。薫さんの結婚の条件、あずは聞いたことある?」


拓真が静かに、落ち着いた私に問いかけた。
私はその問いに応えない。
入籍したことすら知らなかった私が知っている訳がない。


「あずは聞いたことないよね」

「あんた喧嘩売ってんの?」


小さく私が生意気な事を言えば、拓真は小さく声を上げて笑った。
私がその事に傷ついた事を知っているのに、どうして拓真はわざわざこういう言い方をするんだろう。


「薫さんの条件は、薫さんのことよりあずを大事にしてくれる人、だったんだ……」


それでも、私は拓真の言葉に、目を丸くして拓真を見上げた。

拓真は目を細める。
優し気に。懐かし気に……


「“あずを一生守ってくれる人”それが俺を選んでくれた薫さんの条件」

「……嘘……」


ママは、自分の為じゃなく、私の為だけに拓真を選んだの?
拓真は私を見つめ、優しく微笑む。


「喧嘩したって嫌いになったって、他の家の子になりたいなって思ったって、家族は簡単にはやめられないんだよ」

「……知ってる」


そう。私と拓真は、家族なんだ……
そんなことは、痛いほど分かってる。


「あず。俺はずっと、あずの傍にいるから……」


嬉しさとか、哀しさとか、罪悪感とか、寂しさとか……
私が知っているすべての感情が混ざり合って込み上げる。


私と拓真は、誰に何を言われようと家族なんだ。


この先、何があっても。
どうあっても……


私にはどうしても、この人が必要なんだ……