砂の鎖

私は小さく、とても小さく息を吸う。


「……私に謝る必要なんてないから」

「あず?」


不思議そうに呼びかける拓真に、私はそっと振り向いた。
口角を僅かにあげて。


「好きにすればいいじゃない。大体結婚してたって言ったってママはもういないんだし」

「……あず」

「あんたがどこの女と何をしようと、あんたの自由よ」

「……」


拓真は傷ついたように眉を垂らして、口を閉ざした。

僅かにあげていた口角をおろし、今度は拓真を睨み付ける。
拓真はただ、私をまっすぐに見つめていた。


「でもあんたがこの家に別の女連れ込むのだけは私は死んでも許さないから」

「あず、俺は……」

「出てってよ」


私の肩に手をかけようとした拓真の腕を私は思い切り振り払った。

その瞬間、時間が忘れさせていた激情が再び私を飲み込んでしまう。
冷静になろうと思えば思うほど、哀しくてたまらない。


「……私の……私の所為で人生棒に振ってるんでしょ!? 死んだ女に執着する必要なんてないわよ!」 


拓真の為には私は拓真から離れるべきだ。

そんなこと、思っていたって簡単には割り切れない。


いつもヘラヘラしている拓真が傷ついた顔をしていて。
私に何を言われたって反抗期だなんだと言って笑っている拓真がとても哀しそうで。


「気にする必要なんてないわよ! むしろ清々する!」


その表情に僅かな罪悪感が湧くのに言葉が止まらない。
傷付けてやりたいとさえ、思った。

私の口角は勝手に上がる。
言葉も、勝手に零れ落ちる。


「そうそう。ママの葬式の時に香典いっぱい置いてった桑山さんがさ、私を養子にしたいって言ってるの。知ってるんでしょ? あんたが出てけば私は……」


割り切れないと思っているのに、離れないでほしいと思っているのに……

私の行動は正しすぎる。


拓真を傷つけて、私を嫌いになって、そうでもしないとこの人は私を置いてはいけないだろう。

こんな事が言いたいわけじゃないのに、それでも私は……