砂の鎖

拓真はこちらを向いているけれど、視線はその女に向けられているから顔を覗かせた私には気が付かない。

女は私に背を向けていて顔は分からない。けれど拓真の胸に顔を埋めているのははっきりと分かる。
ママとも私とも違う小柄な人で、ママが絶対履かない様な黒のローファーを履いたスーツを着た女性だった。


拓真が彼女の肩に、手をかけようとした。


「……何してるの?」


私の声に抱き合っていた二人ははじかれたように体を離す。

二人が一斉に私の方を振り向いた。
女の目の下が黒くなっていて、彼女が泣いたであろうことは想像できた。


「あなた……」


呆けた様な顔をしながら口を開いたのは彼女に、私は大股で近づいた。
支えを失った自転車が転倒し大げさな音をたてたけれど私は気にも留めなかった。


「あず!」

「あんたここで何してんのよ!」


驚いた様な拓真の声を聞いたのと、私が怒鳴ったのはほぼ同時。
でも私は拓真の方を見もしなかった。


私の怒鳴り声に一瞬怯んだように見えた彼女はすぐに髪を撫でしつけるような仕草を見せて、それから私を見てふっと微笑むような表情を見せた。

小柄な彼女は私よりも視線が低い。
それでも黒く縁どられた瞳で威圧的に私を睨み付ける。

どうして私がこの場所で、誰とも分からない女に睨みつけられなきゃいけないの。