砂の鎖

『亜澄さんの父親は私の古くからの親友で、仕事でも大切な私の右腕だったんだ』


その答えは、とてもあっさりと彼の口から零れ落ちた。


「じゃあ、大切な人って……」

『宗也のことに決まっているだろう』


そう言って、桑山さんは笑い声を漏らした。


『私はずっと、君の母親と宗也の事を反対していた。……宗也の娘を……君をどこの誰とも分からない男に預ける彼女も、それを受け入れている麻生くん……いや、須藤くんも許せなかった』


少しだけ語気を緩めた桑山さんの声に私はじっと耳を欹てた。
この人のこんな声は、初めて聞いた……


『……だがあいつも……宗也も私のいう事を聞くような人間ではなかったな』


その声は少しだけ、寂しそうに聞えた。
彼にも又、割り切れない想いがきっとあるのだろう……


桑山さんはすぐにいつもの自信に漲った張りのある声に戻り『養子の話はいいから、今度宗也の話を聞きに我が家に来なさい』とだけ言った。

私は何か、とても肩すかしを食らった気分で、少し恨めし気に空を睨んで。
それでも桑山さんの誘いを断る理由は見つからず、是非、と答えていた。



雲一つない空に、空々しい顔で嘘を吐いたり隠し事をしたりするママを思い出した。

本当に子供みたいな人で、私は時々本当に呆れていて。

それでも憎めなかった。

大好きだった。



死んだ人は空に行くんだと子供の頃に教わった。

昼間は子供みたいに無邪気に澄み渡り、夜になれば妖艶に輝きを見せる空は確かにママにそっくりだ。
ママは、この空にまだ秘密を隠しているのだろうか。

ずっと苦手だった桑山さんに次に会う日が、少しだけ楽しみな様な気がした。